そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
クロちゃんのばあちゃんにもう一度お礼を言ってスマホを切ると程なくタクシーがスピードを落とし大和商事のビルの前で止まった。
早く陸さんにこのことを知らせなきゃ……
歩道を横切り階段を駆け上がって大きな自動ドアを入る。すると、あの警備員のおっちゃんが暇そうに立っていた。
「おや?お母さんじゃないですか?今日はお一人ですか?」
警備員のおっちゃんの問い掛けを無視し、陸さんのことを尋ねる。
「陸さん?あぁ……YAMATOの小林陸さんですね。10分ほど前に来ましたよ。受付の方に行きましたが……」
「受付……有難う!」
そう叫ぶと受付へ猛ダッシュ!
「あの、陸さんはどこ?販売部へ行ったの?」
カウンターを乗り越えそうな勢いで受け付けのお姉さんに迫ると、顔を引きつらせたお姉さんが「あちらに……」そう言って右手を上げた。
彼女が指し示した方向に視線を向けた私は愕然とする。
「しまった!先を越された……」
ホールの隅にある商談用のスペースで陸さんと女部長が真剣な顔をして何やら話してるではないか!
焦った私は大声で陸さんの名を呼び走り出す。
「な、鈴音……お前、何しに来た?」
私がここに居ることに驚いたのだろう。陸さんが立ちあがり呆然と私を見つめている。
「陸さん、早まらないで!オッパイは完売したよ!1000ケース全部売れたんだからぁー!だから陸さんは大和商事の社員になんてならなくていいの!」
「えっ?全部?」
「うん、残りの75ケース買ってくれるって人が居て……私達、条件をクリア出来たんだよー」
陸さんの胸に飛び込み彼のワイシャツをギュッと掴んだ。
もうこれで陸さんを女部長に取られずに済む。
そう思いホッとして陸さんの顔を見上げ微笑んだら……
背後で誰かが私の名前を呼ぶ。