そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
「小林鈴音!!」
こんなとこで……誰?
私が振り向こうとした時、近くに居た女性の悲鳴がホールに響き渡り、周りに居た人達がクモの子を散らすように四方八方に走り出す。
「えっ……何?」
誰も居なくなった空間に立っていたのは、一人の男。そして、その手には鈍く光るモノが……
―――まさか……ナイフ?
逃げまどう人々の足音と、恐怖に脅えた声が入り混じりホール内は騒然。でも私はまだ、自分が置かれたこの状況を理解出来ず、ボンヤリ男を眺めていた。
「小林鈴音……恨み晴らさせてもらうぞ……」
低く震えた声でそう言った男がナイフの刃先を私に向けニヤリと笑った。
それを見た陸さんが私の前に立ちはだかり大声で怒鳴る。
「誰だお前!!バカなことはやめろ!!」
「うるさい!そこをどけ!小林鈴音を殺して俺も死ぬんだ!」
男が叫んだ言葉でやっと我に返り、とんでもない事態が目の前で起こっているんだということに気付く。
「死にたきゃ一人で勝手に死ね!鈴音を巻き込むな!」
陸さんも負けじと怒鳴り、後ろに居る私に「コイツ、誰だ?」と聞いてくる。でも、その顔に見覚えはない。
「分かんない。知らない人だよ……」
「知らねぇヤツがお前を殺そうとするワケねぇだろ?」
「でも、ホントに知らないんだもん」
すると、私達の会話を聞いていた男が呆れたように笑った。
「だよな……分からないのも当然だ。元々こんな顔じゃなかったからな……」
えっ?どういうこと?
改めて男の姿を確認した私は、やっとその正体に気付き言葉を失う。
金髪に真っ白なスーツ。ジャラジャラぶら下げたゴールドのアクセサリー……そしてスーツの胸ポケットには、真っ赤なバラが……
「もしかして……アンタ、ジョー?」