そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】



――――これが今朝の出来事だ。


ばあちゃんの反対を押し切って出て来たんだもん。簡単に島に帰るワケにはいかない。なんでもいいから一旗揚げて帰らないとばあちゃんに半殺しにされそうだ……


決意を新たにしたところで疲れたからもう寝るとするか……と思って気が付いた。


「あ……布団がない」


布団だけじゃない。生活する上で必要な物、全てが無かったんだ。仕方なく担いできた風呂敷包みの中からバスタオルを取り出し床に敷いてみる。


「仕方ない……今日はこれで我慢するか……」と寝ころろんだ時、けたたましい音楽が鳴り響き驚いて飛び起きた。


「な、何?」


慌てて荷物をまさぐると、なんのことはない。音の主はスマホだった。師匠がこのマンションを契約してくれた時、同時にスマホも買ってきてくれたんだ。でも島は電波が届かないから掛ってきたのはこれが初めて。


「えぇーと……ここを指でスライドするんだったっけ?」


この番号を知ってるのは師匠だけだ。心配して掛けてきてくれたのかな?なんて思っていたら……


「小林鈴音様でいらっしゃいますか?」


師匠じゃない。誰だ……コイツ。


「私、レインボー不動産の虹川と申します。この度はマンションのご契約、誠に有難う御座いました。代理人の小林明(こばやし あきら)様にこちらの方に連絡するよう言われていたものですので……

もうマンションには到着されましたでしょうか?」

「あ、はい」


なんだ、師匠が言ってた不動産屋さんか……


「早速ですが、敷金のお支払はいつ頃になりますか?」

「しききん?」

「はい、礼金は頂いておりませんので敷金のみで結構です。敷金は家賃の3ヶ月分になっておりますので450万円で御座います」


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