そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
「鈴音の為?」
意味が分からないって顔でユウキが首を傾げる。
「……どんなに好きでも別れなアカン恋やってあるんや。死ぬほど好きでも離れなアカン人やっておるんや。
そんな人に比べたら、なんの障害もないユウキは幸や。自分が決心するだけでええんやから……せやから、その幸せを逃すな。美和さんと子供を幸せにしてやれ」
おそらくユウキには、私が本当に言いたかったことがなんだったのか、分かってなかっただろう。
でも、ユウキの目は私がこの部屋に入って来た時とは明らかに違っていた。
部屋の入り口に立ってる多摩雄のおっちゃんに駆け寄り「行かせて下さい」と懇願してる。
「あぁ、行け。二度とここには戻って来るな」
「有難うございます」
何度もおっちゃんに頭を下げた後、振り返ったユウキがニッコリ笑って私に言った。
「鈴音、ありがとな。お前も小林陸と幸せになれよ……」
その言葉が今の私にとって、どんなに残酷な言葉だったかなんてユウキは知らない……
ユウキが部屋を出て行くと一気に体の力が抜け、ヘナヘナと床に座り込んでしまった。するとおっちゃんが微笑みながら言う。
「久しぶりに懐かしい言葉を聞きましたよ」
「えっ?」
「平島の方言……もう何年も聞いてなかった。島の人間が集まっても、今は皆こちらの言葉を話してますからね」
私の横に腰を下ろし、おっちゃんが目を細める。
「で、アレは誰のことを言ってたんですか?どんなに好きでも別れなきゃいけない……ってアレ」
「ぐっ……」
まさかおっちゃんにそんなこと聞かれるとは思ってなかったから言葉に詰まる。
「そ、それは……ただの例えですよ。そんな人達も居るってこと!」
「なるほど……そうですか」
おっちゃんがまた目を細めて笑った。