そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
「それは……」
お母さんが急に沈んだ顔をする。
「鈴音のお父さんはね、昔から釣りが好きで、事故に合った日も車で釣りに出掛けてたの。
いつも一人で行くのに、その日はたまたま陸達のお父さんも連れてって欲しいって……だから二人で出掛けたの」
「えっ……じゃあ……」
「そうよ。鈴音のお父さんと陸達のお父さんは、同じ車に乗ってて事故で亡くなったの。
運転してたのは鈴音のお父さんだったから、私は久美になんて言って謝ったらいいかって思い悩んだ。
でも久美は私を責めるどころか、二人で助け合って生きていこうと言ってくれたの。
あの子だって、産まれたばかりの菜月が居て辛かったはずなのに……」
「そうだったんだ……」
だからお母さんは私を平島で産むとすぐ東京に帰るって言ったんだ。
久美さんを一人にするワケにはいかなかったから……
「その結果、鈴音を手放すことになってしまって……本当にごめんなさいね」
「うぅん、私がお母さんの立場なら同じことをしたと思う。だからそのことはもういいの。友達思いの優しいお母さんで良かった」
「……有難う。鈴音……」
どちらともなく握り合った手。柔らかいお母さんの手が私の手を優しく包み込む。
私とお母さんの間には、もうなんのわだかまりもなく本当の親子になれた様な気がした。
「でも、陸は嬉しそうね。あんなに幸せそうな顔の陸を見るのは久しぶりだわ」
お母さんの視線の先に居た陸さんは、イカれたおっちゃんと向き合いお酒を酌み交わしていた。
「鈴音との結婚を太一郎さんが許してくれたのがよほど嬉しかったのね……あの子は自分が源氏の子孫だと知ってたから、太一郎さんに嫌われてると思ってたんじゃないかしら?」