そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
「あ……」
そうだった。すっかり忘れていたけど、これは楽しい食事会ではなかったんだ……
姿勢を正しイケメン弁護士を真剣な眼差しで見つめると、彼が黒い革のビジネスバックから白い封筒を取り出し私の前にソッと置く。
「……これは?」
そう聞く私に、彼は落ちついた口調で静かに答えた。
「遺言書です」
「遺言書?誰の?」
「……小林琴音(こばやし ことね)さんがお書きになったモノです。つまり、あなたのお母様の遺言書です」
「お……かあ……さま?」
お母さんの遺言書?今頃……なぜ?お母さんが死んだのは、私が1歳の時、もう20年も前のことだ。
「どういうことですか?意味がよく分からないんですが……」
するとイケメン弁護士が少し目を伏せ、神妙な顔で話し出す。
「私は小林琴音さんが経営してた飲食店の顧問弁護士をしておりました。一ヶ月ほど前、琴音さんから遺言書作成の依頼があり、私が立ち合い作成したモノです」
「依頼って……お母さんはとっくの昔に……」
「……亡くなられた。そうお聞きになっていたんですね?」
「は……い」
そうだよ!物心ついた頃からばあちゃんにお母さんは死んだって聞かされてきたんだ。なのに……
「戸惑われるのは当然です。でも、間違いなくあなたのお母様、小林琴音さんは二週間前まではご健在でした」
「二週間前まで……」
「はい。二週間前、突然の心臓発作でお亡くなりになるまでは……」