そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
「はい、昨日会って頂いた白髪の男性。小林太一郎さんです」
あぁ、あの一番イカれたおっちゃんか……
ため息を漏らす私に、イケメン弁護士が占いの簡単な手順を説明し始める。そして最後に「くれぐれもインチキだとバレないようにお願いします」と念を押し部屋を出て行った。
十二単のコスプレして一人ポツンと薄暗い部屋に取り残された私。目の前の水晶玉をぼんやり眺めながら再びため息を付く。
私はどこで間違ってしまったんだろう……こんなことをする為に東京に出て来たんじゃないのに……
すると数分後、イカれたおっちゃんが現れ緊張気味に私の前に座った。そして、私の顔をマジマジと見つめ「その十二単よくお似合いですよ」と微笑む。
「それは、どーも……で、今日は何を占えばいいんですか?」
全くヤル気のない声で訊ねると、真顔のイカれたおっちゃんが小声で言う。
「会社のことを……お願いします。実は先日、専務が定年退職しまして、今度の取締役会で新しい専務を指名したいと思っているのですが、候補が二人居まして……
どちらを専務にするか決めかねているのです。占って頂けますか?」
はぁ?そんなの自分で決めろよ!と心の中で叫びながら冷静に聞く。
「で、その二人の名前は?」
「はい、山田留吉と二階堂勇樹です」
……トメキチ?確か、島で隣に住んでたじいちゃんの名前もトメキチだったなぁ~。三年前に死んじゃったけど、よくお菓子とかくれて優しいじいちゃんだった。
そして、ユウキという名前にも覚えがある。小学生の時、私に意地悪ばかりしてきた男の子の名前が、ユウキだった。