そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
ドキドキしながらその言葉の意味を聞こうとした時、厨房から絶妙なタイミングでユミちゃんが現れ当然って顔をして私の横に座った。
「陸君たら昨夜は寝れなかったからチビちゃんと一緒に寝るって二階に行っちゃった~つまんないからあたしもこっちに混ぜて~」
チッ!いいとこだったのに……邪魔が入った。
するとイケメン弁護士がカウンターに500円玉を置き「それでは私はこれで……」と立ち上がる。
「あ……帰っちゃうんですか?」
「はい、占いの予約が入りましたら連絡しますので……失礼します」
店を出て行く彼の背中を名残惜しそうに目で追っているとユミちゃんが「なんか食べる?」と聞いてきた。
そう言われて初めて起きてからなんにも食べてなかったことに気付き無性にお腹がすいてきた。
「オムライス作ってあげようか?」
一応「はい」と答えたけど、オムライスって、何?
約15分後、再び厨房から現れたユミちゃんが小判型をしたトロトロの卵が乗ったお皿を私の前に置く。
この卵の中に何が隠れているんだろう……と、スプーンで卵を捲ると赤いご飯?赤飯とは違う。おっかなびっくり食べてみると……
「赤いご飯ウマッ!!それに、この茶色いタレも美味しい!」
「アハハ……それタレじゃなてソースだよ。デミグラソース。これはね、琴音ママが残してくれたレシピで作ったんだよ」
「お母さんの?」
思わずスプーンを持つ手が止まり、そのデミグラソースとやらをマジマジと見つめる。
これが、お母さんの味……
「琴音ママがよく言ってたんだ……娘にもこのオムライスを食べさせてあげたいって……だから私が琴音ママの望みを叶えてあげた」
彼女の屈託のない笑顔が私の胸を締め付ける。
ユミちゃんって、見かけはブッ飛んでいるけど、優しい人なんだ……