もっと甘く   ささやいて
「事の重大さがわかっていないようだが、先方は君が来るのを待っていると思うが、私の出したスケジュールに異存なければ渡米の準備をしてほしい。」

「どうしても行かなくてはいけませんか?」

「私に綱を引けと言っているのではないだろうね?どうしてもだ。出発はXX日。もうチケットもホテルも予約済みだ。君には何が何でも行ってもらう。私にここまで言わせるとは、ある意味、大物だな、君は。」

「村田さん、私はまだ実感が湧いてこないのです。」

「では現地に着いたら実感が湧くだろう。それから今回の他にも何本かあるらしいと聞いたが、原稿はすぐ持ち出せるのかな?」

「はい、全部で六本です。未修正です。」

「先方はその六本にも興味があるらしい。忘れずに持って来てほしい。英訳は問題ない。」

「そうですか。」一体何度同じ言葉を繰り返したか、そう思いおかしくなってきた。

「なぜ笑うのだ?」

「いいえ、何でもありません。」

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