しっとりと   愛されて
私は久しぶりの帰国で、買い物をしたり、本屋で雑誌をあさったりした後、時間までホテルでくつろいだ。

食事中、社長はご機嫌だった。

「椿くんは社長秘書になる気はないかな?」

「私はどちらかと言うと営業向きですので、秘書は勤まらないかと思います。」

「そうか、残念だな。2年の赴任が切れたら本社へ戻りたいだろう?」

「いいえ、現地でも構いません。」

「そりゃ、頼もしいな。香川くんも竹林くんも、良い人材は皆向こうに取られているから、私も寂しいよ。」

「社長は正直におっしゃる方なんですね?」

「今の秘書の橘くんは外部から採用したんだ。彼女は見た目が秘書らしくないだろ?だが中身は正反対だ。気配り上手でね、例えスケジュールがびっしり詰まっていようと私にそう感じさせないところに極めた腕が隠されている。彼女はそういう女性だ。」

「橘さんが羨ましいですわ。社長にそこまでおっしゃって頂けて。」

「彼女は捨てがたいな。だが一方で君も使ってみたい。秘書を二人もつけたら社員に変だと思われるだろうか?」

「私にはわかりませんが、二人いることで社長のお仕事が倍以上はかどるなら、得策だと思います。」

「それはやってみなければわからないことだ。」

「そうですね、失礼な言い方かもしれませんが、面白い試みだと思います。」

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