しっとりと   愛されて
社長は気さくな人だった。

こうして何時間話していても苦にならない人だった。

私は亡くなった坪井専務のことを思い出した。

社長より10年は年配だった。

今の私は専務がいらした頃の私とは比べ物にならにほど成長していた。

専務の言葉を今も信じていた。

「どうした?何か思い出した?」

「いえ、申し訳ございません。」

私は専務を思い出して目に涙が滲んでしまった。

「坪井専務のことじゃないのか、思い出したこと?」

「はい。」

「専務は君のことをいつも私に言っていたよ。いつまでも手元に置いておきたい娘のようだと。」

「はい。」

「知っていた?」

「はい、ご葬儀の後、奥様からお聞きしました。」

私は社長のお気遣いに心から感謝したかった。

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