しっとりと 愛されて

「そうだったのか。彼は君の隠れた能力を閉じ込めて、わざとそばに置いていると言っていた。それこそ今のように目の届かない所へ羽ばたいていってしまわれては、いかにも困るといったような寂しさを味わいたくなかったんだろう。だが彼は病名を知ってからは、君のことばかり考えていたと思う。」

私は社長の話しを聞きながら涙が止まらなかった。

「彼の選択は君にとっても最高のものとなった。社にとってもだ。彼には感謝し切れない。今もだ。君もそう思わないか？」

「はい。」

「さ、涙を拭きなさい。それとも私が拭ってあげようか？」

「いえ、大丈夫です。」

「君に泣いてもらえるなんて、彼が羨ましい。私にはそんな女性はいないよ。」

「社長はご自分にとって特別な女性を望んでいるのですか？」

「男は誰でもそう思っているし、相思相愛の相手がいたら、生きている実感が今よりもっと味わえると思う。人間の根本はそこじゃないか？愛し合える人がいてこその人生なんだ。私にはまだ現れないが。その女性がもし君だったら、たぶん毎日悩み、毎日狂うかもしれない。私が想う女性が君でないことを祈るしかないな。」