Eternal Silence
25. 旅立つ日-嵩継-
三月。
化学療法を中断して、
ケアセンターに映ったアイツの体力は
一時的なモノではあるけれど、
回復したように感じられた。
仕事の合間を見つけては、
日参するオレに、
アイツは笑いかけてくれる。
こんなにも穏やかな時間が
オレとアイツの上に訪れるなんて
思ってもみなかった。
そんなアイツが
突然切り出したやりたいこと。
『バーベキューがやりたい』
そうやって笑うアイツに、
最後の思い出を作ってやりたくて
その瞬間から行動を移す。
院長の承諾。
買い出しの応援の召喚。
オレの車は今のアイツには
乗りにくいから、
車椅子が出し入れできる
ケアセンターの車を拝借。
スーパーに買い出しに行ったアイツは、
疲れた素振りも見せずに、
店に帰りたいと告げた。
立ち寄ったアイツの店から、
海斗の相棒である包丁を、
おばさんの許可を得て持ち出す。
アイツの相棒を両手で
抱きしめるように持つと
嬉しそうに笑いかけた。
ただその時のオレは、
海斗が……包丁を使って企んでたなんて思いもしなかった。
午後の仕事を終えて、
声をかけたスタッフたちと共に
ケアセンターの中庭に集まると、
庭の中央に設置されたテーブルには、
アイツが作ったらしい、
懐石料理が並べられていた。
大きなお皿に、
チマチマっと飾り盛された、
普段のオレには無縁の日本料理。