Eternal Silence
「そんな感じしますか?」
水谷さんは、
大きく頷く。
「今日、院長に言われたんですよ。
ERとオンコールデビューになりそうです」
「あらっ、そう。良かったわね。
今日はRiz夫人と一緒に
赤飯炊かなきゃいけないわね」
「せっ、赤飯は……オレ、ちょっと……」
赤飯が苦手はオレは、
少し逃げ腰に……。
「冗談よ、冗談。
安田医師が大好きなお肉を
差し入れしておくわ。
これからが大変よ。
ちゃんと頑張んなさいよ」
「はい」
「あらっ、もうこんな時間。
ほらほら、早く行かない」
慌てて手元の時計を見ると、
オレは医局へと走り出す。
「こーらっ。廊下は走らない」
背後から水谷さんの声を受けて
早々に早歩きに変えながら
医局の前で一呼吸。
「おっ。遅かったなー、安田」
「おはようございます」
そうこうしているうちに、
外科の大御所。
院長の外科医としての片腕、
成元御大が顔を見せる。
「院長に聞いたよ。
ERとオンコールデビューが
決まったそうだな」
「はい」
「今日は集中特訓、
明日のデビューに備えて復習と予習だな。
私が相手をしてあげるからやりなさい」
「はっ、はい。ですが、成元医師は……」
「私は今日、オンコールだ。
どっちに転んでも
担当患者の急変がない限りは
明日は休みだからな」
成元御大は
バンバンとオレの背中を豪快に叩くと、
医局の扉を開ける。
御大に続いてオレも医局へと入室すると、
挨拶をして医局隅にある自分のデスクに座り
病院から支給されているノーパソを立ち上げる。
IDとログインパスワードを入力して
入院患者と担当患者のカルテを確認して
治療計画を検討していく。
午後、一番。
外来開始前の
症例検討会<カンファレンス>の
準備の為だったりする。
院長が姿を見せて
ERと当直から引継ぎを受けると、
オレたちスタッフ全員の一日が
慌しく始まっていく。
成元御大の指導を受けつつ、
デビューに備えるオレの前夜に
突然の緊張が走る。
「先生方、お願いします。
保井多津子さん、60歳女性。
胸痛を訴えて意識障害。
心筋梗塞の既往症あり。
2分で到着予定。当病院の通院患者です」
「ER召集。
今日のチームは、江村・中垣・遠間。
奈良、カルテ調べて
救命室にデーター送れ。
担当医に連絡。
安田、お前も勉強してこい」
水谷さんの声が、
放送できこえ……
張り詰めた緊迫感の中で、
成元医師の
張り詰めた鋭い声が室内に響く。