Candy of Magic !! 【完】
「……いや、いい。今のは忘れてくれ」
ヤト君はそう言うと、私から離れてからふいっとそっぽを向いた。熱が離れて少し寂しく感じる。でも、恥ずかしかったのも事実だから身体の熱を少し冷まそう。
でも、私はにやついた顔を抑えられないでいた。
「忘れてくれって酷くない?言い逃げ?」
「……特に意味はない」
「またまた~」
ヤト君が何を言おうとしたのかはあんまりわからなかったけど、どうやらそれはヤト君の弱みのようだ。人の弱みを握るのはなんだか得した気分になる。
窓に手をかけて戻ろうとしているヤト君に私は首を傾げた。
「そ、そっから戻れるの?」
「……失敗したんだ。部屋の鍵持って来ればよかった」
「つまり……戻るには窓から入るしかないんだ。でも、部屋の鍵閉めないんじゃないの?」
「兄貴が朝勝手に入ってきて起こすからかなり迷惑なんだ。前に鍵かけて寝たら効果覿面だったが、朝からすがり付かれてウザかった」
そこ真顔で言うところじゃないよね……しかも結局はいい結果ではなかったと。
私がクスクスと笑っていると、ヤト君は自身の失敗を笑われているんだと勘違いしたみたいで、少しむっとしてから言った。
「笑うな」
「だっておもしろいんだもん」
「あっそ……そうやってバカみたいに笑ってろ」
「バカじゃないし」
「笑っていればいいんだ。バカだって本当に思ってるわけじゃねぇよ」
「……」
今度は私がむすっとする番だ。そんなに無邪気に微笑まれても反応に困る。少しでもむきになった自分に恥ずかしくなった。
だから、私は手でしっしっと追いたてた。
「早く戻りなよ」
「言われなくてもな」
いちいちカチンと来るような言葉を返すなんて意地悪だな。人の神経を逆撫でしてなにが面白いんだろ。
でも、ヤト君がふいにあくびを漏らしたもんだから私にもそれが移る。
「真似すんな」
「し、してないよ!早く戻んなってば」
「わかったよ……明日紫姫についての本、持ってきてやるよ」
「……今日の間違いじゃない?」
「やべ……そうだった。もう年明けてるし完全に寝ぼけてる。おまえの言う通り戻るとするか」
ヤト君はダルそうに窓に手と足をかけると、どこかを手で掴んでから足で窓枠を蹴った。窓から身体が完全に消えた。その直後に上から少し派手な着地音が聞こえたけど、気のせいだと思いたい。
きっと、着地失敗したんだろうな……
私は窓を閉めてそのままベッドに滑り込み布団を被った。そして、そのままあっさりと眠りにつくことができた。
その日、夢を見る間もなく深い眠りに誘(いざな)われて気持ちよく意識を手放した。