Candy of Magic !! 【完】


「ほら見てよ。ちゃんと料理できるんだから!」

「わかったわかった。見ればわかる」



私たちは教師寮でカレーを作った。肉切って野菜切って焼いて煮て……

私はそれをテキパキとこなしヤト君にはご飯を炊いてもらった。先生はスープを作ってくれて、コーンの美味しそうな香りが辺りを漂っている。

それプラス、カレーのスパイスの香ばしい香り。思わずお腹が鳴って手で押さえた。ヤト君をパッと見ると意地悪そうな笑みを向けられる。

……ふ、ふんだ!お腹ぐらい鳴るもん!

私がせっせと恥ずかしさを紛らわせるためにカレーの盛り付けをしていると、にゅっと横から誰かの脳天が飛び出てきた。その主はカレーのお鍋に鼻をくんくんとさせている。

私は驚いて思わず後ずさった。


とこでふと気づいて叫ぶ。



「ああ~!元生徒会長!」

「……げっ」



私が叫ぶなり彼はあからさまに嫌な顔をした。そしてばつの悪そうに顔を伏せる。髪は以前よりも短く切り揃えられていて、心なしか体型もがっちりとしている。

日に焼けて肌の色が濃くなっていた。まさに別人!


私たちがお互いその場に固まっていると、先生が間にわって入った。



「驚いた?全然違うよね~」

「違うもなにも、あの俺様な雰囲気が感じられない!」

「おまえなあ……本人を目の前にして言うことか?」

「あ……す、すみません……」



ヤト君に注意されて慌てて謝る。元生徒会長さんはしばらく私を見つめていたけど、いきなり笑い出した。今度は驚いてしまう。

その屈託のない笑顔が輝いて見えたから。



「気にする必要ないだろう?」

「……はい。カイン先生に背中を押されて来てみたんですけど、なかなか……でも身体が勝手に匂いに誘われてしまいました」

「ミクも、彼はもう以前の彼とは違うんだ。だから、ちゃんと名前で呼んであげなさい」

「えっと……ラルクさん?」

「はい……」

「カレー、一緒に食べましょう!私が作ったんです!」



私がそう言うとラルクさんは一瞬驚いたような表情をしたけど、すぐに口元を綻ばせた。それは以前の傲慢な彼とは比べられないほど、清々しい笑顔だった。


それからはお互い心を開いて色々と話した。

ラルクさんは普段教師寮の家事全般をしていること、食材は彼が直々に買っていること、掃除もやっていて外の雑草も抜いていること。

そのせいでこんなに黒くなってしまったと白い歯を見せて笑った。


そして、彼が一番嬉しかったのが、部下たちからの手紙。ラルクさんがいなくなってしまって混乱はあったけど、なんとか自分たちでやりくりできてるから安心してください、といった内容だったらしい。

それを読んだ後、男泣きをしてしまったそうだ。恥ずかしそうに頭を掻きながらラルクさんはそう言って、遠くを見つめるような眼差しになった。きっと、部下たちのことを思っていたんだろうな。

転校なんて滅多にないことだったから色々とたいへんだっただろうけど、彼は見事に対応できたから凄いと思う。私だったら見ず知らずのところに下働きで住んでいても、こんな風に明るく過ごせないよ。


一通り盛り上がった後、後片付けをして私はひとり分の食事を持って階段を昇った。行き先はアラン先輩の部屋。食べてくれるかはわからないけど、ダメ元でも声をかけなくちゃ。

初めての男子寮に緊張しながら、先輩の部屋のドアの前に立った。脇にカレーが乗ったトレーを置く。


私は控えめにドアに向かって呼び掛けた。



「先輩……?夕飯のカレー置いておきますね。私が作ったので、良かったら食べてください」



しばらく待ってみたけど、物音ひとつしないから引き返すことにした。明日の朝にトレーは持って帰ろう……でも、ちゃんと食べてくれるかな?返事もなかったし、動く気配もなかった。寝ちゃったのかも。

いつもの先輩に早く戻って、元気な姿を見せてくださいね。いつでも待ってますから……


その願いは、儚く三日後には砕け散ってしまった……



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