Candy of Magic !! 【完】
その後、何事もなく時は過ぎ去りやってきました六時間目!一番来てほしくなかった時間だよ!
……だって、私はいったいどこに振り分けられるのやら。そのことばかりが頭の中をリフレインしている。おかげでナマケモノのことなんて綺麗さっぱり忘れてしまった。
いっそ神頼みにでもするか?どーれーにーしーよーうーかーな……止めよ。現実逃避したらさっきのユラと同じだ。
はあ……どうしよ。今は教室で待機中なんだけど、あと少しでチャイムが鳴りそう。そのときに担任からどんどん言われてくんだって。
誰はどこ、誰はどこって感じで。
……憂鬱。
そして、魔鐘(チャイム)が鳴り響く。悪魔(タク先生)のお告げを受け皆は散り散りになっていった。呼ばれたらすぐそこに向かわないといけないんだって。
寄り道……例えば他の館に面白半分で見に行くことのないようにするため。あとは、待ち合わせをして行かないようにするため。
あんまりそういう緊張感のない空気は作りたくないんだってさ。それほど危険な授業で生半可な気持ちだと命取りになるから。
それに、自分の命おろか他人の命だって奪えてしまうからね……
次々とクラスメートが去って行く中、ユラも走り去り残ったのは私と……ヤト君だった。
普通名前の順じゃないのこういうのって。なんでなかなか呼ばれないんだろ。
担任であるタク先生は名簿を教卓に置くと、私たちを見ながらにこりと笑った。
「おまえたち二人は皆とは別だから」
「……どういうことですか」
「それは自分が一番わかってるんじゃない?」
堪らず私が問いかけると疑問系の返事が返ってきた。
……確かに心当たりはありありですけど。
「ヤト・ヨハンネ、ミク・カーチス……この二人は別個で授業を受けてもらうことになった」
「別個……」
「俺たちが直々に指導することになっているんだよ」
「俺たち……ですか?」
「そう。俺と、彼ら生徒会役員だ」
先生の言葉の後に教室に乗り込んで来たのは……先輩たち。誰ひとりとして青い靴ひもがいない。リボンもネクタイも色がばらばら。
述べ五人の先輩たちが先生の横に並んだ。
「魔法の授業は全学年共通なのは知っているね?先輩からも指導を受けられるようにするためなんだ。先輩も教えることで得られることがあるから。
じゃあ、自己紹介をしてもらおう」
まず口を開いたのは、眼鏡をかけたクールそうな男子の先輩。
「4年5組のアラン・サベル。生徒会長を務めている。属性は水だ」
「アラン硬い、表情筋硬いって……僕は4年6組のソラ・チート。これでも副会長なんだ。属性は炎だよーん。よろしくねー」
その横で軽そうな男子の先輩がひらひらと手を振っている。会長さんは迷惑そうだ。
そして、その隣にいる静かそうな女子の先輩が話し始めた。
「私は3年6組のチサト・ヒューズ。このチャラい男と同じく副会長よ。属性は水」
「チサトちゃんひどっ。チャラくないしそれにきみは水っていうより氷「黙ってください」
「あっ、はい……」
チサト先輩は一見おとなしそうだけど中身はかなりサバサバとしているみたい。男の先輩を尻に敷けるほどの強さ……
呆気に取られていると、その隣にいる可愛い系の女子の先輩がそこに割り込んできた。
「はいはーい、ちょっといい?あたしは3年1組のルル・セレスタだよー。属性は風でーす。会計やってまーす!」
「……ねえ、ルルちゃんの方がチャラくない?」
「チャラくありません。天然と言うんです」
「……ルルちゃんにはさりげなーく甘いよね「黙ってください。水ぶっかけますよ」
「僕の魂の灯火を消さないでー……マジでヤバイからね!ヤバいんだからねっ」
「先輩、後輩の前で見苦しいですよ。同じ役職としては恥ずかしいです」
「僕って先輩として見られてるのかなリトくーん……」
「さあ。敬語だからギリギリオッケーじゃないっすか」
「ギリギリ……」
ルル先輩の隣で待機していた男子の先輩が真顔でそう締め括ると、ソラ先輩はたちまちしぼんでいった。しゅんとおとなしくなる。
……なんか、漫才みたい。
「僕は2年2組のリト・ブレイズンです。属性は風。役職は書記。でも書記としての仕事はあまりしてなくて、会計の確認もしてる」
「ルルちゃんけっこういい加減だもんねー」
「先輩も負けず劣らずいい加減ですよ」
「だからそうなんで突っかかってくるかなチサトちゃんはー」
「語尾を伸ばすの止めてくれませんか。幼稚に聞こえます」
「仕方ないじゃん癖なんだか「はいはいそこまで。痴話喧嘩をここでするんじゃない」
「「痴話喧嘩じゃありません」」
「うおっ……まあ、とにかく落ち着こうか。これから勧誘するんだから」
「勧誘……ですか?」
「そうそう。俺は生徒会の面倒を見る教員でもあるんだ。今日はこの時間を使っておまえたち二人を生徒会に勧誘することになった」
「毎年のことですもんねー」
「そうだね。まあ、今は入る気がなくても、いずれは入りたくなると思うよ」
「……」
入りたくなる……ってなんで?それになんで私たちだけなの?ヤト君なんかじーっと先輩たち見てばかりだし。なんも反応を示さないから目を開けたまま寝てるのかと思った。
「ここにいる者は全員……あるものたちが見える」
「えっ」
「試しに、これが見える人ー」
先生が指差したのは、相変わらず首に巻き付いている青いリス。
これって……これしかないよね。
「ミクは何が見える?俺からは青いリスが見えるんだけど」
「……同じく、青いリスが見えます」
「ヤトは?」
「……俺も」
「ちなみに、俺だけじゃなくて生徒会は全員見えるから」
「……」
「疑ってる?信じられないか。それなら、皆のマナを見せてあげよう」
「マナ?」
「魔法の源のマとナでマナ。俺たちはそう呼んでいる」
妖精は……マナっていうんだ。知らなかった。それに他にも見える人がこんなにいるなんて。
驚きすぎて何も言えない。
「マナはな、実は消したり現れさせたりできるんだが、皆はその存在を認識できていないからいつも放流している。
それはエネルギーの放出……まあ、駄々漏れの原因となり通常の力よりも遥かに抑えられてしまっている。だから、マナを見ることができる人間というのは強い魔法を操ることができるんだ」
と、先生が言い終わった瞬間……
教室が狭くなった。