Candy of Magic !! 【完】
「新メンバーに、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
四年生の女子の先輩が音頭を取って紙コップをコツンとそれぞれが合わせた。ジュースを一口飲む。
「ぷはーっ……最近気温が高くなってきましたね。冷たい飲み物が欲しくなります」
「それはそれでいいじゃないの。釜の温度が上がりやすいんだから」
「火事にはくれぐれも気を付けろ」
「はいはいわかってるわよ。湿気がだんだん上がるとは言え、油断は禁物なのよね」
歓迎会は愛好会の教室。目の前にはジュースとポテトやウインナーなどのつまめるもの。
これらは音頭を取った先輩が調達してきてくれた。事前に頼んであったらしく、これでも他の部活の歓迎会とかぶってしまったから一品減らしたそう。
これでもって言っても、けっこう量はあるんだけどね。
「じゃあ、さっさと自己紹介しちゃいましょうよ。まずはアランから」
「なんで俺?」
「顧問が先なのよ。当たり前じゃない」
「よっ!アラン先生!」
「おまえらなあ……
……まあ、すでに知っているとは思うが、アラン・サベルだ。属性は水」
「そう言えば、属性って何ですか?」
「ミクさん知らないの?魔法の授業で言ってなかった?」
「う、うん……なんか皆当たり前に使ってて説明なかった気がする」
隣の椅子に座っているスバル君に指摘されてしまった。
あの部屋で特別授業を受けているとは口が裂けても言えないから上手く誤魔化した。本当に知らないものは知らないし、そこは嘘じゃないぞ。
「属性っていうのは……魔法の種類のことさ」
「あんた話してるときは食べるの止めなさいよ」
「食べてません。確保してるんです」
三年生の先輩が説明しているときもつまみに手を伸ばしていたから、あの女子の先輩が呆れた顔でそれを見た。
男子の先輩は悪びれた風もなくけろっとした表情で答えた。
「あ、僕の名前はナイ・テクスタでーす。属性は風だよ」
「もうっ!順番的に次はあたしでしょ?!
あたしはアン・ナーリン。属性は火よ」
「まんま炎ですよね先輩」
「なんですって?」
「……おまえらはいつも水と油だな」
「油は先輩っすね。すぐ引火しそう」
「ちょ、あんたね!」
「うるさい」
二人でわーわーと言っているのを見守る私たち。これはこれでムードメーカーなコンビなのかもね。そこにアラン先輩の突っ込み。
でも、皆笑ってるから全てが冗談なのだろう。
「私はヘレナ・フィシャル。属性は火だよ」
二年の女子の先輩がタイミングを見計らったように絶妙な間で言葉を発した。ヘレナ先輩はにこりと嬉しそうに微笑んでいる。笑うとかなりの美少女だ。
「今まで後輩は私しかいなくて少し寂しかったんだけど、仲間が増えて良かったわ」
「いえいえ」
「一年しか変わらないけど、どんな質問にもなるべく答えられるようにするから、気兼ねなく頼ってね」
「わかりました」
ルル先輩とはまた違った感じの可愛い系だな。大人びておしとやかで物腰柔らか。一年しか歳が変わらないなんて嘘みたい。
それは、先輩が、じゃなくて私がってこと。
私はなんて……うん。いろいろと幼いんだろう。
「僕はスバル・マーカスです。属性は風です」
「風?それなら僕と同じじゃん。全然気づかなかったよ」
「僕はあまり目立たない方ですから……」
「背はこれから伸びるって」
「……」
「あれ、そう言うことじゃないの?……イッテ!だから先輩痛いっす!」
「あんたは!確認する必要はないの!」
ナイ先輩が朗らかに言うもののスバル君は苦笑いで無言。そこにアン先輩の鉄拳が飛んできた。
確かにスバル君の身長は私より高いけど……男子にしては低めで童顔。本人は気にしてるみたいでそこを突いてしまったがために、アン先輩がたしなめたのだ。
「ええっと……私はミク・カーチスです」
「属性は?」
「ぞ、属性、ですか……」
ポテトをつまんでいたアン先輩に核心をいきなり突かれてしまった。どうしてこうも自己紹介には属性も言わなければいけないんだろう。
私が返答に困っていると、アラン先輩が助け船を出してくれた。
「俺とおなじとこ」
「え、じゃあこの子は生徒会?」
「まあな」
「は、はい。実はそうなんです……」
「それじゃあ属性もなにもないわね」
……ん?待てよ?勢いで同意したけど、アン先輩の口振りからして生徒会が魔法の授業中何をしているのかを知ってるの?
秘密なんじゃなかったっけ。
「あのー……生徒会は属性が関係ないってどういうことですか?」
おおっ。まったく同じことを疑問に思ってたんだよスバル君!代わりに質問してくれて助かるよ。
「生徒会はね、特訓兼会議をその時間にしてるから」
「特訓……?」
「そう、特訓よ。タク先生って知ってる?」
「はい。担任ですから」
「なら話が早いわ。タク先生は科学者の中じゃちょっとした有名人でね、魔法について色々研究してる人なの」
「博士ってことですか?」
「そうそう。だから属性はなんでもいいわけ。それで、その研究の一環として生徒会に協力を依頼して、魔法についての研究を手伝ってもらってるのよね?」
「ああ」
えっ……そうだったんだ知らなかった。タク先生は科学者なんだ。だから担当が理科なのかな?あっ、飴を作ったのも研究のため?
じゃあ……私たちは実験体……なんかやだな。
「てことは、ミクさんとアラン先輩は生徒会なんですか?ミクさんはいつの間に……?」
「最初の魔法の授業のときだよ。私は最後に名前を呼ばれて、そのときに生徒会に入らないかって誘われた」
「へえー。担任だから成せる技だね。他のクラスだったら不可能だね」
確かに……マナを見られることがわかっていた私たちが、他クラスにいたら勧誘はほぼ不可能に近いはず。
じゃあ、私たちは最初からタク先生の生徒になることは確定してたってこと?
でも、タク先生は確か22歳。アラン先輩が学校に入学した時期とは合わないなあ。
……なんか、わからなくなってきたぞ。
「アラン先輩はいつ生徒会に入ったんですか?タク先生が誘うには、この学校に編入したときと時期が合わないはずですよね」
またまたナイスだよスバル君!代弁してくれてありがとう!
「あ、そっか……そうなるわね。なんか笑える。実はね、タク先生はこの学校出身。そして私たち今の四年生の二個上……つまり?」
「そ、そうか!先輩たちが一年生のときはタク先生は三年生なんですね!」
「ピンポーン!ご名答!」
「あの白衣がついこの間までは制服だったなんて……」
「今も着られなくはないわね」
「それは失礼だろ……」
あー繋がった、そうなるんだ。先生は先輩たちの先輩でもあるんだ。
先輩がある日先生として戻って来たらおもしろそう!……ってあれ、それをアラン先輩もやろうとしてるんだっけ。
じゃあ、もしかして。
「もしかして、アラン先輩はタク先生の真似をしようとしてますか?」
まさに以心伝心!疑問に思ってることが丸かぶりすぎて逆に怖くなってきた。
アラン先輩は照れ臭そうに少しはにかんだ。
「まあ、そうなるな。生徒会を作ったのもタク先輩なんだ」
「先輩……」
「ああ、悪い。たまに癖で言ってしまうんだ」
「生徒会作るなんて凄いですよね。誰も考えつかなかったっすよ」
「あんたには無理ね」
「そこは……否定しないっす」
タク先生は生徒会を作り、アラン先輩はガラス細工愛好会を作った。
タク先生は学校にとんぼ返りし、科学者としての研究と生徒会の顧問をしている。
アラン先輩は、学校に戻ってガラス細工部を作ろうとしている。
うん、先輩の背中を追う若き後輩って感じ。
「アラン先輩はタク先生に憧れてるんですね」
「そうなるな」
「熱い男はモテるわよ~!けどね、一途過ぎて敷居は高いけど」
「アラン先輩モテますもんね。全部断ってますけど」
「ヘレナちゃんだって負けてないじゃないの。あたしなんかほら、こんな性格でしょ?度胸のない男子なんか寄り付きゃしないわ」
「そんなことありませんよ。私はモテてませんし、アン先輩は女子の憧れです。
皆言ってますよ?男女関係なく友達が多くて羨ましいって」
「友達多くたって友達より上がいなくちゃ意味ないわよ」
「そういうもんなんですかね」
おー……ガールズトークが始まってしまった。こうなると多分アン先輩の性格からして止まらないだろう。男子たちは目配せをして呆れている。
しばらく一方通行に近いガールズトークを聞いていたけど、際どいところ……例えば誰が誰を好きだとか、コクったとかに突入してしまって、慌ててナイ先輩が止めに入った。その話はここでするのはちょっと……
グチグチとナイ先輩は文句を言われたけど一件落着。歓迎会とは程遠い恋ばなになりそうだったのをなんとか食い止められた。何気にヘレナ先輩も興味津々だったし。
……隣のスバル君はこの手の免疫がないのか顔をほんのり赤くさせて硬直していた。それに気づいたからナイ先輩が止めに入ったというのもある。
取り敢えず、そんなこんなで歓迎会はお開きとなった。
メンバーの証としてこの教室の合鍵をもらった。いつでも自由に使っていいんだけど、くれぐれも事故になるようなことはしないようにすること。それを守ってくれれば先輩たちがいないときでも釜に火を焚いていいそうだ。
私はマネージャーだからその心配はないけど……スバル君がもし先輩のいないときに使うようならなるべく一緒にいた方が良さそうだ。もしものときひとりでは対処しきれないときもあるもんね。
そして、私はめでたく、本日をもってしてガラス細工愛好会の部員となりました。
これから頑張るぞー!もちろん生徒会もね!