Candy of Magic !! 【完】

球技大会一日目




それから約1か月後、球技大会が始まった。女子はバレーボールとドッジボール、男子はバスケとサッカーをそれぞれ授業中にみっちりと特訓した。

ルールはもちろん、ボールの扱い方やチームの組み方、ポジションなど入念にチェックをして大会に望む。

人数は男女ともに10人ずつ。本当はサッカーは11人らしいんだけど、仕方ないからミニサッカーの6人で試合をする。バスケは5人だからそうなるとひとりは両方ともに出なくてはならない。

……もちろんそのひとりは1組ではヤト君なわけで。

彼の身体能力は卓越していて誰も敵わないんじゃないかっていうぐらい見ていて気持ちのいいものだ。フォームは綺麗だしフットワークも軽い。

でも、私はそんな彼が心配でもある。

なぜなら、彼は両方の種目に出てさらに審判もやらなければならないからだ。いくら体力のある男子と言えどもこれはキツいはずだ。


そう言う私もバレーボールとドッジボールとに参戦。バレーボールは6人を選抜してメンバー替えはなし。ドッジボールは全員参加だから10人ということに関してはなかなか良い内容だろう。

なぜ私がバレーボールにも出るのかと言うと……この図太い神経のおかげか、ボールに対する恐怖心があまりないから。

怖い人にはかなり怖いようで、ドッジボールも嫌々参加……という女子ちょうど4人いたのだ。だから自然とバレーボールも、という形になってしまった。


こうなってしまった以上断ることはできなくて……競技の得点係も生徒会の役割分担で決まった身からすればこちらもハードな仕事だ。もちろん応援をする時間はなさそうで、それを申し訳なく思う。

こんなにも目まぐるしいことになろうとは微塵も予想していなかった私は、時間に迫られながらの忙しい2日間を過ごすことになるのだろう。

……腕時計はやはり必需品なのだとこのときに改めて実感した。



「……あれ?なんでこんなにボールが用意されてるの?」

「先輩のを見てればわかると思うよ」



私たちは次に試合が迫っていたため、ドッジボールコートに向かった。そこでは3年生の先輩たちが試合の真っ最中で、ボールが鋭い軌道を駆け抜けている。得点係はルル先輩だ。ボールを目で追ってにこにこと楽しそうに笑っている。

ドッジボールはまさに一進一退の攻防で駆け引きが重要な競技なのはつい先日わかったことだ。

……しかも、ボールは2つ使うことになっている。その方が燃えるだろうという意向だが、まだまだ初心者の私たちにとっては難易度が高い。今回の大会が同学年同士だけの試合で良かった。

でもそれは今回だけで、次回からは先輩たちとも戦わなければならない。


ユラと一緒に観戦していると、彼女がふと大きな籠に収納されているたくさんのボールの存在に気づいた。

不思議そうにしていたので助言をしてあげる。3年生ともなると……その瞬間が訪れる可能性は高いからだ。


ユラに答えた後、まさにその瞬間は起こった。


けたたましく鳴り響く審判のホイッスルと甲高い悲鳴。そして、燃え盛る火の玉……

じゃなくてボール。



「こういうことだよ」

「な、なるほど……心がヒートアップし過ぎて魔法のたかが外れちゃうんだね」

「熱くなりすぎて無意識に魔法を使うこともあって、それでボールが使い物にならなくなったら、たくさんあるストックからボールを補充するんだ。水ならまだマシなんだけど、火は燃えちゃうし風じゃ切り裂かれるかどこか彼方へ飛んじゃうから……」

「それならいくらボールがあっても足りないかも」

「いや、さすがにそこまで使い物になるわけじゃないかな……」



火の玉からまさに逃れようと必死に避ける先輩たち。すぐさま審判が用意してあったバケツの水をコート外に転がっているボールにぶっかける。

ジュウ……と水分が蒸発する音が立って火の玉はもとのボールに戻った。でも二度と使えない。


ボールを新しくひとつ補充して、試合再開。何事もなかったかのように始めたけれど、ボールを燃やした先輩はコートから外れた。いわゆる退場ってやつで、もうこの試合には出られない。

感情が昂ったまま試合に参加して、同じことの繰り返しをさせないためだ。



「1年生は滅多にこんなことにはならないから安心してね」

「今回はね……次の球技大会が怖くなってきた。先輩と当たってもし危険な目にあったら……はあ~」

「大丈夫だよ。いざとなったら先生たちもいるし」



そう、コートひとつにひとりずつ先生がついている。監視役なのだ。

観戦はもちろんのこと、監督をするために先生たちは椅子に座って試合を眺めている。このコートは……女の先生。知らないから他の学年の先生なのかもしれない。

その先生の足元には……青い羊が居座っていた。メリノー種と言って角が丸く曲がっている種類の羊。もこもことしていて気持ちよさそうだけど、いくら青いとは言え生憎今は気温が高いからむさ苦しく感じる。

しかも私のこと見てるし。



「あ、試合終わったね」

「頑張ろうね」

「う~……緊張してきた」

「リラックスだよリラックス。身体硬くなっちゃうよ」

「リラックス、リラックス……」



ユラはリラックス、と何度も呟きながらコートの内野へと入って行った。私は外野に回る。

外野は私を含め3人だ。相手は5組で、なんだか強そうな女子がずらりと……あ。

まさかの、運動部が集結しているクラスと当たってしまうという運の悪さかな?そういうことだよねこの体格差は。

いきなり大ピンチだよね……勝てるかな?でも頑張らないと。ユラに言った手前弱音を吐いている場合じゃない!


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