Candy of Magic !! 【完】
ミクの生い立ち
私は兄ひとり父ひとりの3人家族。母は私がまだ幼いときに死んでしまった。もともと病弱で、2人も子供を産めたことは奇跡に近いんだってお父さんは言ってた。
お母さんとの思い出は曖昧。ぼんやりと、もうひとり家族がいたな……ってことしか覚えていない。
顔も声も背格好も全然わからないけど、それでもちゃんと私は4人家族だったんだってことだけは覚えてる。
お父さんはお母さんが死んだ後、お兄ちゃんと私を連れて商人になった。いわゆる旅商人で、キャラバンに同行していろいろなところを訪れた。
訪れた先には数日しか滞在しなかったから、もちろん友達なんてできなかった。子供を連れている仲間もいたけど、その親が私たちにあまり近づけないようにしていたのを目にしたことがある。
なぜかは……私の虚言癖と、お父さんの魔法のせい。私の虚言癖は言うまでもなく薄気味悪く、お父さんの魔法は……とにかく強かったんだ。
強いがために、畏怖され避けられた。お兄ちゃんはそのことを気にしてはいなかったし、私の虚言癖ももろともせずいつも堂々としていた。たしなめられることはあったけど、そのことで物凄く怒られることはなかった。
そうして、共同生活なのに孤立した生活を送っていると、お兄ちゃんがいつの間にか学校に行く歳になっていた。学校に通うのに拒否権はないけど、無理とわかっていてもお兄ちゃんはそれを拒否していた。
働きたい、といつもぼそっと呟いては顔をしかめていた。こんな環境で育ったせいかしっかりもので大人びていて、私は学校に行かなくてもいいんじゃないかって思っていた。
でも、お父さんが魔法を上手に使えることを証明できなければ、俺のようになってしまうとお兄ちゃんを諭すと、お兄ちゃんは大人しく学校に行くことを決めた。
お父さんの言葉は最もで、反論する言葉が見当たらなかったからだ。魔法を操れるようになれなければ、確かにこの世界では除け者にされてしまう。
お兄ちゃんを学校に送ってから、私たちはちゃんと住居を持って暮らし始めた。女である私に荒(すさ)んだ環境でこの先も暮らしてもらうのは申し訳ない、ということだった。
別に旅商人でも良かったのだけれど、世間体を考えるとそうせざるを得なかったのかもしれないと今になって思う。
そして、とうとう私が16歳になって学校に旅立つときがやってきた。ここからは少し遠くの学校だけど私たちに拒否権はなくて、お父さんは文句を言わずに見送ってくれた。
お父さんは私がいなくなってからはまた旅商人に戻るみたいで、運が良ければ同じキャラバンに、見つからなければ別のキャラバンに同行して商売をするらしい。
この家は貸家として他の家族に預け、私がまた戻って来るときには使えるようにしておくそうだ。でも私が仮にそこで暮らすことになると、別の家族と暮らすことになるけれど。
お兄ちゃんが教師をしていることは噂で聞いていたから、お兄ちゃんはもう戻って来ないだろうなと私は思っている。働きたいと言っていたのは私たちがいたからで、近くにいなくなったから、別の目標に向かって生活しているに違いない。
私が聖ナヴィア魔法学園にいることを知っているとは到底思えないけど、でもどこかでまた会えればな、と恋しく思うときもある。
お父さんともいずれまた会えればいい。もしかしたら学校に来て出店を開く機会があるかもしれないし。
そういうことだから、私はちょっと変わった生活を送ってたんだ。