Candy of Magic !! 【完】
「その、カーチスっていうのは父親のものか?」
「そりゃそうでしょ。お母さんは嫁入りしたんだから。でもお祖父ちゃんとかお祖母ちゃんとかには誰にも会ったことないな」
「その黒髪黒目は遺伝?」
「うーん……たぶん。お父さんは私と同じだけど、お兄ちゃんは青い目をしてたな。色白だし。それがどうかした?」
「いや……おまえはどちらに似たのかと思って」
「さあ。お母さんの容姿なんて覚えてないよ」
色々とヤト君に聞かれたけど、その目的はまるで見えない。ただの好奇心なのかもしれないし。
でも、こんなに真剣に聞いてくれるとは思ってなかった。初めて他人に話した生い立ち。恥ずかしかったけど、途中からそうだ、お父さんやお兄ちゃんはこんなことしてるんだったと再確認することができた。
怒涛の毎日が過ぎていて、すっかり家族のことなんて頭から抜けていた。風変わりな家族だからかもしれないけど。
「じゃあまた明日ね。あれ、また試合出られるってこと?」
「まあな。試合は勝ったのか?」
「全勝」
私が自慢気に言うと、ヤト君は少し嬉しそうに口角を上げた。少しとは言っても、表情に出るぐらいだから余程嬉しいのだろう。
「早く寝るんだよ?」
「わかってる」
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
食堂の前から男子寮に行くために、彼が後ろにくるりと振り返ったときに私は挨拶をした。ヤト君は少しの沈黙の後に挨拶を返してくれた。
照れているのか、その声は小さかったけどしっかりと聞き取ることができた。彼の過去からしてあまり言ったことのない言葉なのかもしれない。
私は食べ残していた残りのおにぎりを平らげ、部屋へと着替えを取りに行く。誰も立ち食いしてるとこ見てないよね?見られたら絶対に何か言われるもん。
中身はゴマ昆布で、歯と歯の間に挟まったゴマを舌で出しながら階段を上った。
『剣と鈴、そして翼』
その意味を考えながら。