Candy of Magic !! 【完】
恐らく同じ境遇であろう少女。冷たいオーラを無意識に放っている少女。
その少女が気になって気になって仕方なかった。彼女の純粋な反応は見ていておもしろいものだったからかもしれない。
俺のしがないガラス細工に目を輝かせ、花の名前を教えてやると、次の日にはしっかりと覚えていた。
だんだんと心を俺に開きつつある少女に情が沸く。だが、別れのときは必ずやってくるものだ。
いつものように会い、笑い、話し、また明日も来るものだと思っていた。しかし、だんだんと少女の態度に違和感を持ち始めた。いつ言い出そうか迷っている感じ。
俺はそのちぐはぐさに歯痒さを感じていたが、本人が言い出すまで待とうと思った。強引に聞き出すような真似はしたくなかった。
律儀にも待ち続け、俺が気紛れから飴玉をひとつあげると、少女は泣きそうな顔になった。でも、涙は流れない。
「ど、どうしたんだ?なんで泣きそうになるんだよ」
俺がおろおろとしていると、少女はにっこりと笑って俺を見た。そして飴玉を口に含むと、美味しい、と何度も言って舐め始めた。
美味しい美味しい美味しい……と何度か繰り返してから、噴水のふちからパッと立ち上がり、座っている俺を見下ろした。俺もつられて立ち上がる。
しばらく口をもごもごとさせた後、とうとう少女が口を開いた。
「今日ね、ここから出てくの」
「えっ……」
俺は衝撃のあまり言葉が出なかった。いや、本当は心のどこかではわかっていたのかもしれない。少女は別れの言葉をいつ言おうか迷っていたことを。
俺はそれを察していながらも気づかないふりをしていたんだ。だから歯痒さを感じていたんだ。
いざその現実に目を向けると、俺は言葉が出なくなった。
「キャラバン、出てくの。私も出てく。おにいちゃんとはお別れ。もう会わないよ。私は家に住むんだ。ここが最後のトリヒキ先」
「……もう、会えないのか」
「うん。ここが最後だったけど、おにいちゃんのおかげで一番楽しかったよ」
と、言葉を言い終えると、飴をまた舐めだした。言葉を考えている風にも見えるし……泣き出すのを我慢しているようにも見える。
俺が言う言葉を探していると、ふと少女は踵を返して歩き出してしまった。俺は堪らずその細い腕を掴む。こんなにも頼りなかったなんて、そのとき初めて実感した。
そして、離したくないと思った。
俺はその腕を引っ張り、胸に抱き締めた。僅かに香る飴の味。そして、少女と目を合わさず、その小さな唇へと唇を合わせた。
とたんに広がる甘い林檎の味。
「甘いな……」
呟いてからペロッと自分の口の周りを舐めた。それを少女は顔を真っ赤にさせて凝視してから、我に帰ったのか急に俺をドンと突き放した。
そして、キッと俺を睨み付けてから捨て台詞を吐いた。
「おにいちゃんなんて、嫌い」
そう言うと、走って俺の前から去ってしまった。でも、これでいいのかもしれない。彼女自身が忘れられるのだとわかっていた。それなら、俺が忘れれば決着がつく。彼女は必ず俺のことを忘れるはずだから。
……俺の初恋に終止符を打つという、決着が。
しかし、それは無様にも再開という形で、打ったつもりの終止符がすっぽりと抜けてしまった。