Candy of Magic !! 【完】
Summer of First Grader !!

学園祭?




「テスト終わったー!」

「お疲れ様」

「ミクもね。地獄の数学を終えたあたしは解放感マックスよ!」

「今度は……体育祭?」

「やって来ました運動!球技大会の分も挽回するわよ!」



中間テストを終えてユラははしゃいでいる。でも周りもざわざわと騒がしいから特別ユラが目立っているようにはならなかった。テスト返しがまだ控えてはいるけど、そのことはユラは眼中にないらしいし。

赤点取らないといいんだけど……赤点を取ったら最悪の場合部停にされてしまう。陸上部の活動に参加できなくなったら、きっとユラは抜け殻になってしまうんじゃないかと私は心配している。

私は絶対に赤点取らない!取りたくない!



「よーし、部活行ってくるね」

「うん。最近暑いから熱中症には気を付けてね」

「水分補給でしょ?わかってるよ。その前に日焼けしないかはらはらしてる」

「日焼けは……しょうがないよ」

「う~……やっぱり靴下焼け凄くて」



ユラの場合顔の日焼けはそこまでじゃないんだけど、靴下焼けが特に酷い。お風呂のときに皆に靴下脱ぎなよ、とからかわれてしまう始末。しかもうっすら半袖半ズボンの境界もあるから、そのうち洋服脱ぎなよ、と言われてしまうんじゃないかと思う。

……私もその一連を見て笑ってしまったんだけどね。確信犯だねこれじゃ。



「ミクも熱中症気を付けなよ。ある意味一番なりやすいんだから」

「はいはい。日焼けはしないけどね」

「いいなぁ……ま、後でね」

「ばいばーい」



ユラに手を振って見送ってから、私も荷物を持って教室を出る。今日は部活停止期間からの久々の部活で、それに午前中はテストで午後は自由だから何時間でも部活にいられる。

先輩たちに会うのも一週間ぶりぐらいだ。



「こんにちはー」

「お、やっほー」

「ナイ先輩早いですね」

「終わってから速攻来たからね」

「今日も暑いですね」

「そうだね~。でもこれからもっと暑くなるよ。まだ初夏だし。汗だらっだらで作業しないといけないから、タオルを首に巻いたり頭に巻いたりしてやるんだ。汗が釜ん中に落ちるとさ、ジュッてすげー音すんのね。おっかねー!ってそのとき思った」

「確かに釜の熱さを物語ってますよね」

「だろー?」

「うっさい声がいると思ったらあんたね。廊下まで響いてたわよ」



ナイ先輩がだろー?と言った後、教室にアン先輩が入ってきた。机の上にドンと荷物を置いて椅子に乱暴に座る。テストがあって汗も噴き出てイライラしているのかもしれない。



「それが僕の長所です!」

「ただうっさいだけじゃないの」

「あはは……」



私が笑っていると、スバル君も教室に入って来た。



「あ、お疲れ様です」

「……ん?んんんんん?」

「な、なんですかナイ先輩……」

「背、少し伸びたんじゃね?」

「ほ、本当ですかっ!」



スバル君を見つけたナイ先輩は彼の周りをグルグルと回って、頭の天辺から爪先まで眺めた後手をスバル君の頭にあてて唸った。

背が少し伸びたかもしれないという言葉にスバル君は目を輝かせる。余程気にしてるんだね。



「ミクちゃんはどう思う?」

「……言われてみれば?」

「それじゃ答えとしてダメだね。言われてみればそうかもしれない、と言われてみれば確かにって2つの答えがあるじゃん。はい、その続きは?」

「言われてみれば……確かに」

「その間(ま)は失礼「クドイッ!」

「ぎゃあ!」



ナイ先輩の言葉に困惑していると、横からアン先輩の回し蹴りが炸裂した。ドタッと床に倒れるナイ先輩。

イテテテ……と腰を擦る先輩にスバル君が駆け寄った。



「だ、大丈夫ですか?」

「な、なんとか……」

「細かい男だねあんたは。短所はそこね、めっちゃ細かい男ね。めっちゃ細かい男代表」

「なんか嫌です……」

「じゃあ直しなさいよ」



ナイ先輩はしょぼーんとしながら立ち上がると、制服についた埃を叩いた……あ、そっか。部活なかったから掃除してないんだった。

私は掃除ロッカーから箒(ほうき)を取り出して誰もいないところから掃除を始めた。案の定隅の方は埃が溜まっている。窓をいつも開けて作業してるし、砂埃に近いな……とか思っていたらまた誰かが入って来る音がした。



「おい、1年生だけに掃除やらせて何やってんだ」

「「……」」

「さっさと手伝え」

「は、はいっ!」



どうやらアラン先輩らしく、スバル君が返事を慌ててした。次々と掃除ロッカーから箒を取り出して皆で一斉にやる。

それからヘレナ先輩も合流してやっていなかった分入念に掃除をする。窓枠が特に酷く、気になって仕方なかったから雑巾を絞って砂を拭いた。雑巾を裏返してみると茶色く汚い色がついていた。



「ミクちゃんはいいお嫁さんになるわね」

「へ?な、なんですかいきなり……」

「気が利くってことよ」



アン先輩はそれだけを言って私に背を向けてしまった。何が言いたかったのかはわからないけど、褒められたんだと思うと嬉しくなる。


キャラバンから離れて家に住んでいたとき、掃除はいつも私がしていた。というのも、お父さんは街の店に仕事をしに出掛けていたから、家事全般は私が受け持っていたのだ。料理はお父さんに手伝ってもらうときもあったけど、だいたいはひとりでやっていた。お父さんは仕事で疲れているから、私もできるだけ何かやろうと思って、お父さんが帰って来る頃に合わせて作っていたのだ。

お父さんはそんな風にしなくていい、と言っていたけど、私が懲りずに毎日するもんだからそのことに何も言わなくなっていった。

そして家事は私の日課となり、その名残でこんな風に、気になったことはすぐにやろうとしてしまうのだろう。家にいたときは暇で暇で仕方なかったし。だからガーデニングをしたり縫い物や編み物をしたりと、学校に来る前は専業主婦となってしまったのだ。

随分と若い奥さんねぇ……とか噂されたこともあるけど、私がお父さん、と呼んでいることを知ると納得していた。そして本当の奥さんがいないことを知った近所のおばさんたちがたまに遊びに来るようになった。

いわゆる井戸端会議で、長話をしては笑ったりお菓子の作り方を教わったりと有意義な時間を過ごした。


その点では、お父さんの言っていた『世間体』に似合った生活を送れていたのかもしれない。



「掃除終わり!釜の温度もちょうどいいし。できてなかった分張り切るわよ!」

「そう言えば、学園祭に出す作品を考えないといけないんでしたっけ」

「「学園祭?」」



ヘレナ先輩が学園祭、と言ってその言葉に反応した私とスバル君。被ってしまってお互い顔を見合わせた。

学園祭……って何?



「学園祭知らないの?」

「はい」



ナイ先輩に驚かれてしまった。学園祭……学園祭……うーん、わからない。



「学園祭は、近辺の他校や街の人向けに催す祭りのこと。でも近所に学校ないから街の人向けになるんだけどね。5つぐらいの街から住人の人がたくさん来るんだ」

「へえー……知りませんでした」

「他校から来ないのは残念ですね。情報交換とかしてみたかったです」

「……今年は他校も来るらしい」

「え?初耳よそれ」



ヘレナ先輩の説明に相槌を打っていると、ナイ先輩の言葉の後にボソッとアラン先輩が呟いた。アン先輩が驚いて声を上げる。

他言無用だって言われてるからあんまり言いふらすなよ、と前置きをしてからアラン先輩が話し始める。

……それなら話さない方が良いのでは?



「それってどこの学校?」

「聖エネラル魔法学園」

「そこって!最高峰の学校じゃないの!どうしてそんなところの学校がウチに?」

「さあな。新鋭の学校の下見だとは思うが……ここはまだ新しいから情報が集まっていないんだろう」

「あの~……聖エネラル魔法学園って?」

「一番強い学校よ……学力においても魔法においても。エリート学校っていうことね」

「ひえー、なんか怖そうっすね。ヤクザとかっすか?」

「バカよねホントあんたは。学力においてもって言ったじゃないの」



全てにおいてエリート……確かに怖い響きだ。どんな教育を受けているのか気になる。

授業数が多いとか?もしかして部活は必要ないからなかったりして。そんな学校つまんなさそう。

あれこれと想像を膨らませていると、アラン先輩がため息を吐いた。



「くれぐれも言いふらすなよ」



……だから、そう言うなら教えなきゃいいのに。




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