Candy of Magic !! 【完】


誕生日を覚えていてくれたとは感謝してもしきれない。こんな影の薄い私が誕生日プレゼントをもらえるなんて奇跡だ!

感動して胸にじーんときていると、アン先輩が私とスバル君を手招きした。

近寄ると、はい、と紙袋を渡される。



「本当はラッピングしたかったんだけど、お金かかるからケチっちゃった。ごめん」

「いいですよラッピングなんて!プレゼントが貰えたっていう事実だけでじゅうぶんです!」

「そう?お誕生日おめでとうミクちゃん」

「おめでとう!」



ヘレナ先輩もニコリと笑って祝福してくれた。



「それにしても、この作品の山どうするわけ?正直言って邪魔よ」



廊下にも溢れている作品の数々。アラン先輩の命令を守っているけど、意味はあるんだろうか。



「この作品は、学園祭で展示品として出すだけじゃない。気に入ってもらえればあげようと思う」

「あげるの?お金は取らずに?」

「材料費がタダなのに料金を取れるわけがないだろう。確かに料金をもらってここの維持費に使おうかとも考えたが、俺が早く戻ってくれば必要なくなる」

「かなり自信があるのね」

「当たり前だ」



アラン先輩は強く答えた。その意思は決して曲がることはこの先きっとないだろう。

だって、勘当されちゃったんだもんね。それぐらいの覚悟を背負って望むわけだから、一年でも一日でも早く学校に戻ろうと高みを目指す志を保てないと、家族に見せる顔がなくなる。

早く先生になって、この道が正解だったのだと証明しないといけない理由が先輩にはあるんだ。



「アランこのあと暇?」

「なんだ藪から棒に」

「暇なんだったらタク先生に許可もらってきてくれない?日付はおまかせするから」

「先輩の都合に合わせるってことか?まあ、暇だから行けるが」

「じゃあお願いするわね。善は急げよ!」

「ミク、おまえも来い。今日は終わりにしろ」



足を釜の方へ向けていた最中にそう言われギクリと立ち止まる。

きっとアラン先輩は私がまた脱水症状にならないか心配してるんだ。有無を言わさない怒気が言葉に含まれているのを感じる。

ホントにあと少しで何かが掴めそうなんだけど……あと少しあと少しって先伸ばしになってまた意識が朦朧としてしまうかもしれない。

そう思うとやっぱりこの辺で切り上げるのがちょうどいいのかと自分を納得させて、プレゼントが入っている紙袋を持って大人しくアラン先輩の隣に立った。

アラン先輩は悪いな、と言ってから笑って部室から出て行った。私もシュンとして後ろをついていく。


私たちが出て行った後にこんな会話がされていたとは、そのときの私の耳には当然入ってくるはずもなかった。



「過保護ですね先輩」

「ヘレナちゃんもそう思う?球技大会らへんから隠さなくなったよね。アン先輩はどう思います?」

「あんた、あたしに喧嘩売ってんの?冗談じゃないわよ」

「売ってませんよ。玉砕した身からの意見をただ述べて欲しいだけです」

「玉砕?……それってつまり「あーっととと。スバル君その続きは禁句だよタブーだよ」

「す、すみません……でも、そんなことが繰り広げられていたなんてこれっぽっちも気づきませんでした」

「しかもライバル手強そうだしね。ヤト君だっけ?まさにアラン先輩のちっさい版」

「ええっ……それも知りませんでした。アラン先輩は薄々そうかなーとは思ってたんですけど」

「あたしからすればどうでもいいと思いたいんだけどね……潔い女になりたいんだけど未練がましい女にもなりそうだわ。あたしに対するアランの態度がまったく変わってないのが癪に触るけど……でもありがたくも思うわ」

「海が勝負時ですかね。気になりますー。

……この話はこの辺にして、作業しましょうよ作業!本当に間に合わなくなりそうですし」

「よーし、何作ろうかなー」

「あんたはいつも無計画よね。そんなんでよくもあんなまともな物が作れるわ」

「手先は器用ですからー」

「……まさに星座の如く夏の大三角みたいな関係ね。冬まで持ち越されるかもしれないけど」



アン先輩とナイ先輩は話をしていてヘレナ先輩の呟きは聞こえていなかったみたいだけど、スバル君はその言葉とフッフッフッ……とほくそ笑む彼女の横顔を見てゾッとした。

女の恋バナはなんと恐ろしいのものなのか、と。



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