Candy of Magic !! 【完】
生徒会室に着いて、私は思いっきり生徒会室の部屋を開けようと手をかけた。
「待て!鍵がかかってる……はずなんだが。チサト、ここで何やってるんだ?」
先輩の制止が届かずに私はスパーンと生徒会室のドアを開けてしまった。そう、なんと鍵がすでに開いていて中にいたのはチサト先輩。
でも先輩は咄嗟に何かを背中に隠したのを発見した。
「いえ……別に。買い物に行って疲れたので一休みしてました」
「ではなぜアイスを食べていたんだ?」
「えっ!アイス?」
「た、食べてませんよ……」
「口についてる。それに棒が見えた」
「っ!!」
何もついてもいない口元にサッと指をあてた先輩に私は、ははーんとにやける。
まんまと先輩の術にはまったんだなチサト先輩。
チサト先輩は私たちの視線の意味に気づいたのかぎこちない笑顔を向けた。
「これは……その……街で買ったアイスでして……」
「言い訳がましいぞ。アイスなんかこの気温ではすぐに溶ける。正直に吐け」
「うう……ソラ先輩には内緒ですよ?絶対にからかわれるんですから。ちなみにアイスは売店でもらったものです……」
「ソラ先輩……?」
「実は……一昨年に生徒会室には冷蔵庫があるのを発見しましてですね。誰にも言わずに……こうやってこっそりと飲み物や食べ物を冷やして食べてました……」
「はあ……おかしいと思ったんだ。生徒会室がこんなにちらかっているのにおまえはちっとも片付けようとしない。その性格からしたら堪えられないはずなのに、だ。それはつまり、冷蔵庫が晒されるのを防ぐためだな?」
「おっしゃる通りです……」
チサト先輩は呆気なく認めた。
でも意外だな。先輩が隠し事するなんて思ってなかった。一番嫌ってそうな人に見えてたし。
「ちょうどいい。おまえも手伝え。ミクが片付けたいってうるさかったんだ」
「騒いでません!」
「そんな!ソラ先輩には内緒にできないってことですか……」
「そもそも誰もおまえが冷蔵庫を隠してたことは知らない。それならからかわれる口実にはならないだろう。だからおまえも手伝え。俺も働かされるんだからな」
「道連れ……」
「なんで私が悪者扱いされてるんですか!もうやっちゃいますからね!」
私はぷりぷりと怒って窓をバーンッ!と開け放った。それだけでも埃が立つから何年分のゴミが溜まっているのだろうかとうんざりする。やりがいはありそうだけど……
やりがい=量の多さ、だ。
私はズボンに挟んで腰につけていたタオルで顔の半分を覆った。さすがに目は覆えないから我慢する。
「私は埃っぽいところを叩くので先輩たちは箒で掃いてください。ちゃんと置いてある物は退かして掃いてくださいね」
いつの間にかアラン先輩が持ってきていたはたきを片手にお願いする。
2人は気のない返事をすると、物を退かし始めた。初めに退かしてくれるらしい。
私は机に乗って棚や段ボールの上に積もった埃を叩く。目に見えるぐらいの綿埃が舞って思わず目を瞑った。そこからはがむしゃらに叩きまくる。ええい、落ちろ落ちろ落ちろ!
ある程度落ちたな、と思って目を開けてみた。うん、綺麗になった。
額に浮かんだ汗を腕で拭うと、色が汚なくて思わずウゲッと顔をしかめた。汚い!灰色の汗とかキモい!
「冷蔵庫はどこだ?」
「……」
「ここか?」
「……」
「じゃあここだな」
「うーああ~……私の財産がー!」
「嘘つけ。へそくりの間違いだろ」
声がして振り向くと、ちょうど冷蔵庫が発掘されているところだった。ちゃんとコンセントが刺さっているのが見える。チサト先輩は柄にもなくアラン先輩の腕にしがみついていた。
アラン先輩は熱いと言いながらチサト先輩の身体をぶんっ!と振りほどく。
「コンセントだけは抜かないでください!アイスが貯金されてるんです!」
「その貯金を崩して俺たちの褒美にするから観念しろ」
「お慈悲を……!」
「無理だな」
アラン先輩はチサト先輩のノリに乗って先輩の反応を楽しんでいるようだった。不敵な笑みを浮かべて突き放すような言い方をしている。
でもご褒美がアイスと聞いて燃えてきた。そう言われてお昼食べてないのに気づいたからお腹が急にすいてきたのだ。
後ろではガサゴソと冷蔵庫の中を漁っている音がして耳だけをそこに集中させる。
「クッキーにビスケット?あとは……マドレーヌとカップケーキもあるのか……なんだここはお菓子の金庫か?」
「全財産です!」
「以前から知っていたが、かなりの甘党だな」
「そうなんですか?」
次々と美味しそうな名前がポンポンと出てきて作業の手が止まっていた。はたきの先についている布がゆらゆらと揺れている。