Candy of Magic !! 【完】
「夕飯のときの先着スイーツにいつもありつけている唯一の女子だからな」
「あ、あれですか」
ユラが以前妙に張り切ってたっけ。先着20人限定だから、男子ばかりが独占しているということだったはずだけど……
そこにチサト先輩が含まれていたとは。女子なのに……
「じゃあ初日のチョコケーキは食べたんですか?」
「もちろんよ」
「いいなあチョコ……」
チョコを食べられる人は限られているから思わず呟く。甘さの中にほろ苦さがあって、とても上品な味わいなんだそうだけど……言葉だけじゃ全然わからない。
一度でいいから食べたいー!
「冷蔵庫も見つかったことだ、残りはさっさとやるぞ」
「はい」
チサト先輩は先ほどよりは元気も調子も取り戻してきたらしく、きりっとした声で返事した。
人のギャップってあんまりいいものでもないな……ユラは前、男子のギャップは女子の胸キュンとか言ってたんだけど……
ドン引きに近いような気がする。そもそもチサト先輩は女子だし。
その後も段ボールの中身をすべて広げて仕分け作業をした。学園祭のパンフレットはもちろん全部残しておいて、残りのほとんどはすべて廃棄処分となった。こんなにいらないものが溜まっていたとは信じられない、と大きなゴミ袋2つを眺めながら思った。
アラン先輩にゴミ袋を出しに行って帰ってもらって来た後、やっとご褒美タイムになった。どんなアイスがあるのかなー。
と心を弾ませてアラン先輩と物色しているとき、鍵穴が回される音がした。そして、今一番来てほしくない人たちの声。
「あれ?開いてる」
「先輩逆に回したんじゃないっすか」
「そんなわけあるか」
「じゃ俺開けますね」
この声とドアのガラスに蠢く影……
待って待って待って!開けないでー!
でも無情にもドアは開かれ、驚いているソラ先輩とリト先輩とヤト君……
その見開いた目はやがて開いている冷蔵庫へと向けられ、ソラ先輩がおもしろいものを見つけた子供のように瞳を輝かせた。
「皆でこそこそと僕たちのいないところで何やってるのかなー?冷蔵庫なんてあったっけチサトちゃん」
「……」
「僕たちのいないときに何してるのかなーアラン」
「……」
「ミクちゃんは正直だから教えてくれるよねー?」
「……お菓子の金庫です」
私の答えで一瞬首を捻った先輩は、すぐに思い付いたのかバッと駆け寄ってきて私の横から冷蔵庫の中を覗いた。
私が見ていたところは冷凍庫で、キンキンに冷えているアイスが……じゅうぶんな量貯金されていて、そのひとつをこれまたバッと取って袋から出してパクッと食べてしまった。
あーあーあー、言わんこっちゃない。こうなると思った。
先輩は満面の笑みを私たちに上から向ける。
「この様子から察するに……チサトちゃんが全部知ってそうだよね。すべて洗いざらい吐いてもらおうかな」
先輩は暑い中部活をやっていて身体が火照っていたのか、アイスを食べ終わってご満悦そうだった。でもチサト先輩がさっきの言葉でたじろいだのがおもしろかったのかわからないけど、ずっと不気味なほどににこにこと笑っている。
私が少し身を引いていると、ヤト君が近づいて来て教えてくれた。
「この人、いつも以上に笑ってたら虫の居所が悪いときだって思っといて」
……マジですか。