Candy of Magic !! 【完】
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ヤトside
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「おい!しっかりしろ!」
「……触るな」
「は?」
焦ってあいつの肩を揺さぶっていると、そんな声が聞こえて手をはじかれた。
呆然としていると、あいつがゆらりと立ち上がり、しゃがんでいる俺を見下ろす。
でも、俺はそこで驚愕した。なぜなら、瞳の色が……黒ではなく金色をしていたから。
ミクのようでミクではないそいつは……きょろきょろとさせた後、アラン先輩に目を止めて興味深そうにしげしげと見つめた。
「ほう……珍しい魂がそこにいる」
「魂……?」
「前世の魂と言うべきか。貴様らの偉人にあたる人物だ」
「……おまえ、何者だ。名を名乗れ」
「私はヴィーナス。名前ぐらいは知っているだろう」
ヴィーナスだと?確か教科書に出ていたな。
紫姫よりももっとずっと昔の偉人に伝説の4人と呼ばれる人物たちがいて、あの魔物を撃退した人たちだ。それまでの過程には色々複雑な関係があったらしく、異世界から来た異界人がそこに関与していたらしい。
その異界人のことを魔物、または神類(じんるい)と呼んでいた。でもそれには派閥があって、この世界を支配しようとする『奴等』、人間の味方をする『我ら』がいたという。その『我ら』の中にはヴィーナスという女性がいたらしい。ヴィーナスは4人の中で紅一点だった女性に力を貸していたそうだが……戦いが起こる前に消滅したはず。
なのに、なぜ今ここにいるんだ?しかもあいつの身体を乗っ取って。
「ヴィーナス?資料の記述からして、そのような態度だったとは書かれていなかったが」
「何年前の話だと思っている?憶測からして、大方それはシーナへの態度だ。尊敬に値しない輩に敬意を示す必要などない」
こいつの言ってることキツいな……俺たちは見下されているってわけか。どんだけ態度がデカいんだよ。
俺は負けじと立ち上がって抗議した。
「そんなの理不尽だろ。見下される覚えはない」
「貴様こそ私を見下しているだろう?態度が大きいと。そう顔に書いてあるぞ。ふん、しらを切ることは不可能だ。貴様が私に敬意を払ってくれるのであれば、私も貴様に敬意を払おう」
「くっ……」
確かにその通りだ。この世界の糧となった存在に向かって、俺は無礼な態度を取っている。それは今までそんなことを体験したことがなかったのもあるんだろうが……
あいつの声、表情、そのものであるのが調子を狂わせる原因だ。外と中がまったくの別物であるのは、鋭い口調と無表情から察することはできる。
でもまだ、思考と態度と精神が理解できていない。
「俺の魂……それは誰のものなんだ?」
「教えて欲しいのか?生憎私は秩序を乱すような言動はしない主義でな。男、とだけ教えておこう」
「男……」
「無駄話はここで終いだ。私は使命を課せられてこの地に降り立ったのだから」
「使命?」
「そうだ。私は道案内をするためにわざわざあの男に命ぜられたんだ。私の命はこの世界で朽ち果てたため、もとの世界に戻らなかった。しかしもとはこの世界とは相容れぬ領地から訪れたため、転生をすることもできずにいる」
「じゃあ、それからずっとこの世界を見てきたってことか?」
「そうなるな。シーナの死を見届けてからも私は見てきた。だがそれは一瞬に過ぎない。つい昨日のことのように、シーナの顔を思い出せる……」
シーナ……それは紅一点であった女性の名前だ。その人は4人の内のひとりと結ばれて国を造り上げた王妃。それまでの過程は目覚ましいと教科書には大々的に取り上げられている。
その人と実際に会ったことのある人が目の前にいるのはいまいち実感は湧かないけど、普通はあり得ないことなんだよな……
「案内とは、どこへ?」
「この島の中心にある湖だ。しかし、普通の者ではそこにたどり着けない。たどり着けるのは……素質のある者だけだ」
「どんな素質なんだ?」
「それは知らん。認められればそれでいいんだ」
「いったい、誰に?」
「龍に、だ。そいつが貴様らの言うマナを束ねている存在だ。まあ、百聞は一見に如かず。黙ってついてこい……だが、ついてこられたらの話だがな」
ついてこられたら……認められなかったらそれまでなんだろう。俺たちは想定外の訪問者。邪魔者になる可能性は十分にある。
ヴィーナスの後ろを言われた通り黙ってついていくことにした。今頼りにできるのは、目の前を歩いているヴィーナスだけだ。
愛想をつかされてしまえばどうなるかわかったもんじゃない。それは先輩も同じらしく、ヴィーナスに黙ってついている。
これからどうなってしまうのか、俺たちにはわからない。