Candy of Magic !! 【完】
「……おまえマジで言ってる?」
「……マジ」
「冗談だろ……あり得ねぇ」
彼は髪の毛を片手でくしゃっと握った。私は掻きむしりたい気分。
あり得ない……はこっちの台詞だ!マジであり得ない!なんでこいつも見えてるの?本当にあり得ないんだけど!
私たちの心情などお構い無しに赤いネコはのんきに私たちの周りをぐるぐると歩き回っている。鼻唄でも聞こえてきそうな陽気さだ。
でもそれどころじゃないっ!
「……いろいろと話を聞きたいのは山々だが、そろそろ時間だ」
「今……8時ちょい過ぎだよ」
「消灯は10時半。それまでに部屋に戻らないといけない。俺は風呂まだだし」
「私は友達とお風呂に行ったから、彼女よりも帰りが遅いのはおかしい……」
「……取り敢えず帰るか」
「うん……」
私は腕時計を確認した。時計はここでは必需品。時間に厳しいからこれがないと死活問題だ。安心してどこにも行けやしない。
彼はスッと立ち上がってドアの方に向かってしまった。案外背が高いんだな……とか思ってみる。
その背中を見送っていると、彼はくるりと私を振り返った。でもやっぱり顔は暗くてよく見えないけど。
「おまえ、何組?」
「はぁ?……まったく。あんたと同じ1組だけど」
「ミク……なんだっけ」
「ミク・カーチス!」
「そうそう、ミク・カーチス。
ああ、忘れてたけど……このネコ俺のだから。じゃーな」
「……え、ちょっと待っ……てよ……はあ、行っちゃった」
反応が遅くなったけど聞き返そうとしたら無惨にもバタンとドアが閉められてしまった。ヒュウッと肌寒い風が駆け抜ける。
ネコもいつの間にかいなくなっていて、私はひとりぽつんと屋上に取り残された。それでも星たちは輝きを失せないで私を見下ろす。
「……言い逃げとか酷すぎ」
彼が妖精が見えることに続き、あのネコの主は彼だということが判明。これは気になって気になって仕方ない。子供にも妖精がついているとは今まであり得ないと思ってたし見たこともなかったのに。
……さて、私も帰ろう。なかなか寝付けそうにないけど。
私も屋上を後にした。そのあと少し迷いながらも、なんとかユラが帰る前に自室に戻ることができたが、なかなか眠れなかったのは言うまでもない。
「明日絶対にいろいろと聞いてやるんだから……」
そんな野望を抱いて、浅い眠りを繰り返した。