Candy of Magic !! 【完】
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ミクside
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「ここはどこ?」
私は誰?……とまではいかないけど、どこかくらいは教えてほしいな。
またあの場所。花畑。目の前には突き刺さった剣。
二度目だから驚きも感動も薄いけど、でも、明らかに前との違いは見て取れた。
……花が、所々枯れてる。
「どうして……」
茶色くなっている花のところにしゃがんで呟くと、後ろからまたあの声が聞こえた。
『それは、兆候』
パッと振り返ればあの姿。美しい青い龍。
「ねえ、どうして私たちをあそこに流したの?」
『指輪は鍵』
「え?」
『鍵のため。鍵のもとへと導いただけ』
「指輪は鍵……」
意識を失う寸前に聞いたフレーズ。
でも、指輪って?鍵って?
わけがわからない。
「ちゃんと教えてよ」
『指輪はあなたにとっても鍵。それと同時に、破滅への鍵にも成り得るでしょう』
「破滅……そう言えば、マナの世界が滅びようとしてるって……」
『あなたの世界と私たちの世界は表裏一体。どちらかが欠ければ、どちらも消える』
「それってどっちが欠けるってこと?私の世界?それともマナの?」
『どちらも。マナの存在はだんだんと無意味となっている』
「無意味……」
確かに、マナは当たり前の存在になって、人間で見える人は少ない。そのうち忘れ去られれば、マナは無意味な存在になっちゃうよね。
『マナが消えれば、魔法も消える』
「え?」
『マナが消えれば、魔法も消える。マナは必要とされてこそ存在できる。すなわち無意味なら存在する理由もない』
「……」
長年培ってきた人間の糧が消えちゃうの?そんなのあり?
魔法が消えちゃったら、私たちはどうなっちゃうの?
「な、なんで消えちゃうの?」
『科学の発展。それが原因』
「科学……確かに、科学は便利だよね」
科学がこの世界に輸入されて、生活はぐっと楽になった。水仕事が減って、さらには時短になって……
洗濯機も冷蔵庫も便利。電気も電源ひとつでつくし、お風呂もわざわざ火で焚かなくてもよくなった。
そうなれば、人間が魔法から科学に依存するのは時間の問題だよね。
『発展の裏には、後退が付き物』
「科学が発展すれば、魔法はどんどん使われなくなるよね……寂しくない?」
『寂しい。頼ってほしい。それが私たちの存在する意味』
でも、龍はそう言うと、私の足元にある枯れた花を見た。それは、悲しそうな瞳で……
こうやって私たちはマナを見ることができるけど、見えない人には理解し難い。必要とされていると、見えない人たちは感じ取ることもできないんだから。この悲しそうな瞳を、見ることができないんだから……
『だから、助けてください。この世界を』
「ど、どうやって?」
『あなたが、力を使うだけでいい』
「力?でも私、魔法使えないよ……」
『大丈夫。使える。あなたは、特別』
特別……前にも言われた。私は特別だって。
何が特別なのかさっぱりわからないけど、でも、龍の瞳があんまりにも真摯で心を揺さぶられる。
助けてあげたい。
「魔法を、使えるようになればいいの?」
『そうです。魔法を使えば、この世界は救われる。マナは自由を得ます』
「自由……」
危機感の束縛から解放されるってことかな?なんで私が魔法を使うと救われるのかはわからないけど、こんな役立たずの私を必要としてくれてるんだから、無下にはできない。
私は頷いた。
「わかった。マナのために頑張るね!」
『ありがとう……』
龍はお礼と一緒に頭を下げると、満足したのか徐々にその姿をスッと消していった。
ほんの僅か風が吹いて、髪をさらさらと撫でる。花畑の花たちも、心なしか元気に色を増したように見えた。
「でも、指輪って?」
それに答えてくれる人は、誰もいない。