Candy of Magic !! 【完】
「お父さん元気だった?今は何してるの?」
「今は……そうだな。旅商人は辞めたよ」
「え、じゃあ無職?」
「ハハハ……無職か。お父さんは別のところで働くことになったんだ」
「どこ?ここから遠い?」
「……いや、ここ、だ」
「?」
私はお父さんの前では子供に戻る。お父さんのお腹に抱き付いて顔だけ見上げて質問攻めにした。
お父さんはそんな私を目を細めて見つめる。私はお父さんの答えに首を傾げた。
「昔、お父さんが剣術をやっていたのは知っているな?」
「うん。大会で優勝したこともあるんだよね」
「そうだ。それを今更ながらに掘り起こされて 、ここの剣術部の特別顧問として採用された」
「え……じゃあつまり……」
「そう。お父さんはこの学校出身で、学園祭が終わったら働き始めるんだよ」
「お、父、さん……うっ、うっ……」
「ミク、泣く必要はないんたぞ?よしよし……」
「だって……」
片腕を失ったお父さん。私がいなくなってどうやって生活しているのか気掛かりで仕方なかった。毎日心配してしまって、でも知らんぷりもできなくてひとりで夜泣いたこともあった。学校に行ってごめん……大変なお父さんを置いてしまってごめん……って。
お兄ちゃんもそのことを含め、学校に行きたくなかったんだ。それを口にはしなかったけど、 お父さんはきちんと理解していたから息子には学校に行って教育を受けてほしかったんだ。
私たち家族は、固い絆で結ばれている。
想って想われて……お母さんがいない分、自分が しっかりしなくちゃって。ずーっと小さいときから思ってた。
「言わなくてもわかってる。心配かけたな」
「うん……」
お父さんは笑いながら右手だけで私の涙を拭っ てくれた。私も笑顔を向ける。
困らせちゃ、ダメだよね。
「家族の感動の再会を邪魔するつもりはありませんが……紹介してくれる?」
私たちを眺めていた全員がハッとした。私でさ えハッとする。そう言えば、今は学園祭の真っ最中で、ここは部室。しかも私はメイド服姿……
いつの間にかいたタク先生の言葉で赤面した。 タク先生は今一番状況を詳しく話せるであろうお兄ちゃんに話しかけた。
「この男前なのが、俺とミクの親父。見ての通り、ある一件で左腕を無くした」
「初めまして、カイン・カーチスと申します。娘がいつもお世話になっています、スリザーク先生」
「あの、名乗りましたっけ?」
「いいえ。ですが、君はお父さんによく似ているのでね」
「そうですか……嬉しいんだかうれしくないんだか、複雑な気持ちです。親父にはあまり似たくありませんから」
「それは残念。お祖父さんにも似ているよ」
「じいさんもなんかなあ……まあ、その話は後程 。今は生徒が主役の行事なので時間をさいてしまっては勿体ないですから」
「そうですね……トーマ、おまえはどうする?」
「どうするっつっても……やることはひとつだよ 」
「そうか、ミクを頼んだぞ」
「了解。んじゃ後でな」
「ああ。ミクもまた後で会おう。メイド服もいいが、制服で今度は会いたいものだ」
「お、お父さん……」
「楽しそうで何よりだ。ミクの作品はきちんと見たからね、後で買いに来る」
メイド姿見られたー、というのと、作品も見られたー、というので恥ずかしくなってどぎまぎしてしまった。そんな私にお父さんはふわりと優しく笑うと、タク先生と一緒に出て部室を去って行った。
いつまでも出て行ったところを見つめていると 、アン先輩が私にこそこそと近づいて来た。反対側にもヘレナ先輩がにじり寄って来て、板挟みの状態で左右から話しかけられた。
「「お父さん、イケメンだね……!」」
「え、あ、はあ……そうかもしれませんね」
「あんなにカッコいいお父さんがいるとは……」
「羨ましい限りよ。これじゃ見る目がなくなるのも頷けるわね」
「み、見る目……?」
「それはさておき、お父さん、いくつなの?」
「ええっと……45歳ぐらいですかね」
「若いっ!若すぎるわ!見た目的にも若いっ! でも雰囲気はダンディーな大人の男性って感じだったわね」
「まあ、そうですね……」
アン先輩は興奮ぎみに鼻息を荒くし、ヘレナ先 輩はぽわ~んと意識が飛んでいる。
スバル君は何も言わないし、お兄ちゃんはさっきまでいなかったアラン先輩と視線を交わしている。
お客さんもそそくさと退場してしまったから、 私たちしかこの場にいない。しかもこの微妙な空気……
そこに、いきなりあの男が帰ってきた。
「たっだいま~!……あれ、どうしたんですか皆さん呆けて。見てくださいよーやっとたこ焼き買えたんですよ。10分も並びましたが、嬉しかったんで二箱も買っちゃいました!あ、それと前を通ったんで焼きそばもうぐぐぐぐぐ……」
「あんたはちょっと黙ってなさい!」
お父さんが作り出したこの余韻を見事に壊してくれたナイ先輩。アン先輩が堪えかねて思いっきりその口を塞いだ。すると、見えない糸が切れて皆がぱちくりと瞬きをする。
アラン先輩がぼそっと呟いた。
「不思議な人だったな……」
その隣で、犬が緊張ぎみにビシッとおすわりをしていた。