Candy of Magic !! 【完】



「鼻にアイスついてる」

「げっ!ダサっ!」



ソウルが慌ててかぶりついたもんだから、勢い余ってアイスにぶつかってしまったのだ。覗くとアイスが鼻の形にへこんでいる。

ソウルは指でごしごしと鼻を拭った。



「うん?つーか、食べ歩きってダメじゃなかったか?」

「……忘れてた」

「おいー!生徒会しっかりしろよー!」



ついつい廊下で食べていた俺たち。慌ててアイスを出しているクラスの教室に入る。教室内はどこも机が並べてあって、中で食べるようにしてあるんだ。

それをすっかり忘れていた。



「マジでアイス落としたらヤバかったな」

「ああ。気を付ける」

「しっかし、人増えてきたな。知ってる人にも会わない」

「おまえの場合すれ違っても相手が気づかないんじゃないか?」

「どういう意味だよそれ。嫌みか?」

「褒めてんだ」

「嘘くさっ」



俺は適当にソウルをあしらいつつ、教室から廊下を歩く人を眺めていた。エネ校も一般人も楽しんでいる様子に満足する。

バリバリとアイスのコーンを食べて俺たちは立ち上がる。



「よし、行くか」

「行くってどこだよ」

「歩けばいいんだ。ターゲットが留まるのはよろしくない」

「あっそ」

「なんだかんだで付き合ってもらって悪いな」

「いや、平気」



ソウルといても飽きないからいるだけだ。それに、俺はあの忌まわしい向こうの生徒会長に目をつけられている。ひとりで歩いていたら何をされるかわからない。

いざこざはなるべく避けなければ。


俺たちが教室を出ようとすると、ソウルが本日初のスタンプ押しをした。一般の女性たちに声をかけられる。



「全然気づきませんでした!」

「そうですか?これでも自然に今まで通りにしているんですが」

「足細いですねー!羨ましいです!」

「いえいえ、バスケやってますから腕はもりもりですよ。お姉さん方こそ、スタイル抜群ですって」

「お世辞はいいですよ~!」



……おいおい、逆ナンか?盛り上がってるから置いてくか?それにソウルも満更でもなさそうだし。

俺が少し身を引くと、ソウルにがっしりと腕を掴まれた。

……やめろ、俺をだしにするな!



「あ、ちなみにこいつのあだ名は王子って言うんですよ、カッコいいですよね?」

「えっ!きゃっ!カッコいいー!」

「ホントだー!顔小さい!」

「いえ、俺は……」



ソウルに少し睨みをつけて見ると、ソウルは軽く苦笑いをしていた。

……なるほど、本当はちやほやされるのは嫌いなわけか。俺もだけどな。

ここは営業スマイルで切り抜けるに限る。



「では、俺たちはこれで。楽しんでくださいね」

「ええっ!もう行っちゃうんですかあ?」

「はい。あ、ここのアイスオススメですのでぜひ。俺はバニラでこいつはイチゴを食べました」

「アイスだって!食べよ食べよ!」

「イケメンさんまたねー」

「はい」



……疲れた。

げんなりとしながら俺たちは人気の少ないところまで進む。



「勘弁してくれ……あのテンションについていけるわけねーだろ」

「それにしてもヤトは大胆だね。宣伝までするなんてさ」

「女子は甘いものに目がないからな」

「宣伝もなんだけどさ、これ、ね」

「あ?」



これ、と言ってソウルは手首を見せてきた。

……だあーっ!



「ヒュ~!やるねお兄さん!お姉さん感激しちゃった!」

「キモいからやめろ!」



俺はソウルとあの場から早く離れたかったために、こいつの手首を手で掴んで引っ張っていたらしい。これでははたから見ればカップル同然。

……失敗した。何やってんだ俺。



「でも、俺だからできたことだよ気にすんな」

「は?」

「これがあの子だったら……ねえ」

「誰だよそれ」

「うわっ!おまえわかってて言ってるよな?」

「……」



んなことおまえが気にする必要はない。大きなお世話だ。

だが、気づかれてるとなると厄介だな。



「なあなあ、もっと攻めないと勝てねーぞ」

「なに言ってんだよ」

「あんときの試合で気づいたんだけどよー……もしかして、三角関係?」

「……」

「あ、やっぱし?俺は洞察力がいいんでね。でも当の本人はかなり鈍感?もしくは気づいてないのかな?そこが醍醐味でもあるんだけどね」

「黙ってろ」

「へいへい。仰せのままに……じゃ、まだ1日は長いんだ気楽に行こうぜ」

「ったく……」



俺が廊下に一歩踏み出したとき、兄貴が誰かを連れて歩いているのが見えた。あれは……男?でもなんか変だ……

俺には気づかず、目の前を横切って廊下を歩いて行く。そのとき、違和感の正体に気づいた。

あの人……左腕がない。



「どうした?」

「いや……なんでもない」



兄貴はどうやら案内していたらしく、曲がり角のところで別れて行った。男はひとりでどこかへと消えて行く。

ソウルには関係ないことだと思って言わないでおいた。ただの道案内だろうし。


でも、あの人はなんか引っかかるような感じがした。あの人の周りだけオーラが違うというか、閑散としているというか……



「ヤト?行くぞ?」

「ああ……」



俺は気になりながらも、ソウルの後について行った。

その男の正体を知ることになるのは、明日のことである。




■□■□■□■□■□■□■□■□



ミクside



■□■□■□■□■□■□■□■□


< 89 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop