悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「……嘘……。
パソコンでニュース見たもの。
神威の村、ダムの底に沈むって
書いてあったもの。
だからなんでしょ……」
隠したい現実。
覆したい決定事項。
俺が目を背けたい出来事を
真っ先に突き付けるように
切り込んでくるのは
アイツの昔からのやり方。
「責めてるんでしょ……。
昔から何も変わらないもの。
幼い時から、ずっと近くで
神威を見続けてる私だもの。
神威が隠しそうなことくらい
わかるわよ」
そう言うと、
アイツは今度は俺に両腕を伸ばして、
膝枕するように頭を引き寄せた。
「貴方は何も悪くないわよ。
ダムの一件で、
神威が交渉を頑張ってたのは
私は知ってるもの。
被災した村の人たちの為に、
神威が頑張り続けてきた時間を
傍で見守ってきたんだもの。
許してあげなさいよ」
桜瑛の言葉は、
優しく俺の上に降り注いでいく。
出逢ったころから……
桜瑛はいつもこうだ……。
俺が一番望む言葉をくれる……。
桜瑛の膝枕に、
なされるがままに頭を預けながら
その心地いい時間に身を委ねた。
車がゆっくりとマンションの
地下駐車場へと吸い込まれて、
地下エンドランス前で、車が静かに停車した。
「ご自宅でございます」
久松の声に、
慌てて体を起こした俺を見ながら
桜瑛はクスクスと笑ってた。
運転席から降りた久松は、
静かに後部座席のドアを開ける。
「明日、秋月さまを
お迎えにあがる時間は
いかがなさいますか?」
久松は、
俺と桜瑛が車から降りるのを
お辞儀をしたまま待ちつつ、
声をかける。
「久松さん、
明日、秋月に六時ごろ帰りたいの」
「かしこまりました。
五時頃にお迎えに上がります」