悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
水面は煌びやかに蝋燭の炎を
描き出す。
湧水がそのまま流れ込んで出来た
洞窟の中の、泉にゆっくりと体を沈めて
一身に歯を打ち鳴らす。
流れでる冷たい湧水が、
淀んだものを祓い
神聖な気へと導いていく。
それと同時に、
感覚が一つ一つ、閉ざされていく。
そんな時間を過ごして、
宝殿の社に中に移動すると、
そこには……
当主としての盛装である
式服と天冠が奉られていた。
白装束を脱いで、
白衣に袖を通す。
白粉をして
単・袴と順番に
着付けて……
最後は、千早にも似た
長い表着を着流す。
千早にも、能装束にも
かの前世の記憶にも見た時代の
衣装にも似通った
式服を身に纏うと
ゆっくりと天冠をのせた。
歩くたびに、
天冠からは、シャランと
鈴が重なりあう音が聞こえる。
神鏡が映し出す、
中性的に女のようにも映る
俺自身にも苦笑いしながら
ゆっくりと、
総本家の建つところまで下山する。
その瞬間から、
式服に着替えた一族は、
当主と、桜を乗せる、神輿の傍に控える。
「ご当主、
神輿のお支度が整いました」
万葉の隣、
ようやく来た飛翔は
立ち上がって俺を見ると
絶句するように固まった。
だろうな……。
俺自身も、
正直この式服の正装は戸惑うんだよ。
鏡に映し出される顔は、
全くの別物みたいで。
金襴豪華な神輿の中に
ゆっくりとした足取りで入室すると、
外からゆっくりと扉が閉められる。
これで中から、
外の景色は見ることは出来るが
外からは一族の生神の姿を
見ることは出来ない。
「ソーーーーリャー----」
万葉のゆっくりとした
掛け声が周囲に響きわたると
浮遊感の後、
神輿がゆっくりと平行に
振動なく担ぎ上げられる。
その神輿の隣、
チラチラと中を気にしながら、
隣を歩く飛翔。
やがて、桜御殿から歩き出した
桜の神輿が、当主の後ろに合流する。
両側に村人たちの花道が広がり、
その中をゆっくりと厳かに
歩みを進めていく神輿行列は
山辺地区の方まで続いていく。