悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~




総本家を出て、
山辺地区に辿りついたのは
約一時間後。



ゆっくりと輿がおろされて
外からの扉がゆっくりと開いた。





覚悟を決めて、
神輿からゆっくりと降りると
その土地に住んでいたと思われる
村人たち、
その場所を慕う村人たちが
頭を垂れて出迎えた。




喪服に袖を通して、
俺を睨みながら立つ
その中に捕えたのは、
陸奥虹也の姿。





その姿を見た途端に、
何か起こりそうな
感覚が襲い掛かる。





「神威?」

「いやっ。
 何でもない」




小さく飛翔と言葉を交わすと
そのまま、山辺の中央に設けられた
祭壇へと向かう。



来賓客の席には、
あの朱鷺宮の姿。




すぐに視線を逸らすと、
目の前の儀式へと集中する。



祭壇に向かうまでに間にも、
あの日から九年。


九年の間に、新たに誕生した
逞しい草花の命。

花が咲き、
川は新たな水の流れを作り始めた。



そんな村も、
この儀式の後には、
ゆっくりと水の中に沈んでいく。






村の人たちの
思い出と一緒に……。






まずは、この地に眠る
村の守り人である
土地神に許しを請い、
土地神に一族で用意した
新たな場所へと移り住んでもらうように
促すための儀式。




そして……第二部は、
この地に育まれた命に感謝をして、
全ての霊を慰めるための
鎮魂の祝詞。






あの災害の後、
まだ生死が不明な村人も
6名存在する。




この場所には……
まだ見つからぬ、
その人も
眠っているかも知れない。






そんな全ての魂を
清めて鎮めるための
祈りの儀式。







その後、ゆっくりと桜が
舞を奉納する。







厳かな時間がゆっくりと流れて、
村人たちの心を代弁するように
天(そら)から、弱い雨が降り始めた頃
全ての儀式は、
ゆっくりと幕を下ろした。







山辺地区に居た者たちは、
神輿に続いて、
山高い場所にゆっくりと歩いて行く。




そしてやがて、
神輿は静かに地上へとおろされた。



儀式を終えた俺は、
この神輿の中から、
水の中に沈んでゆく
村の最後を見届ける。








村を支えた、旧村役場も
今は……土砂に埋もれた。









高台から、それぞれに
一輪の花を
山辺地区に投げ入れる村人たち。

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