悠久幻夢嵐(2)－朱鷺の章－Stay in the Rain～流れゆく日々～

「って、お前さ。

　この雰囲気の中で、どうやって
　お前を呼び捨て出来んだよ。

　知ってるか？


　このただっ広い大学の特別病室。

　向こう側にいるの、
　どんな連中だよ。

　祖父ちゃんについて俺だって拝んだことある
　徳力の偉い人らが勢揃いして
　病室の入り口の扉の前なんて、
　警備員が突っ立ってんだぜ。

　
　中に入るのにも、金属みたいなものを
　服の上からあてられて。

　そんな中で、
　お前の事呼び捨てなんてしてみろよ。

　俺の方が殺されそうじゃん」



そう言いながら今もキョロキョロと
控室の住人を気にする
コイツが少し面白かった。



「ノート、悪かったな。
　期末、何時からだ？」

「そうだな。
　後、三日後。

　
　香宮の授業でいっぱいいっぱいの俺と違って
　そっちは余裕だろ？
　
　神前悧羅の悧羅校っていやぁ、
　頭いいヤツ多いじゃん。

　頭良い奴か、
　何か一芸に秀でた奴が通う学校だろう。

　なんでそんな学校から、
　わざわざウチに転校してきたんだよ。

　あそこはエスカレーターなんだろ」




控室を意識していたアイツの緊張は、
ゆっくりと解きほぐされていったのか、
俺の前で素の陸奥を見せるようになっていた。




「飛翔が言ったんだよ。
　飛翔って、
　俺が意識戻った時に傍に居たヤツな」
　
「当主補佐役の先代当主の弟」

「まっ、そうだな。
　ソイツが卒業した母校が、香宮なんだと。

　その当時は、
　浅間って名前だったらしいけどな。
　
　それで、三年間の冒険中」



呟いた俺に、
陸奥は同情するようにしみじみと吐き出した。




「お前さ、辛くねぇ？
　
　当主って言われても、
　生神って騒がれても、お前神様じゃなくて
　人間だったじゃん。

　さすがにあの時、
　自分の掌から、剣を抜きだしたときは
　ぞっとしたけど、その力に俺は救われた。


　お前がいなきゃ、俺はあの場所で死んでた。

　けどその直後、
　俺を飛翔さんだっけ？

　あの人に預けるのと同時に、
　お前がぶっ倒れた。


　そのまま毛布に包まれて、
　後見の人に歩み寄られてされるがまま、
　その場所に留まって、
　お前が蘇生処置されるのを見てた」