悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
意識を失ってからの時間が
ほんの少し、
陸奥に寄って知ることが出来た。
「気にするな。
俺がやりたくてやったことだ。
それよりテストなんだろう。
苦手な問題、どれだよ」
そのまま勉強会に
突入した俺の病室には、
俺と陸奥の笑い声が木霊していた。
あの力を解放する間際、
黒い闇に飲まれそうになっている
陸奥を見た。
だが今、目の前のコイツに
その闇は感じられない。
「ご当主、
宜しゅうございますか」
後見役の声が聞こえた途端に、
陸奥の態度がピクリと構える。
「気にするなって。
入れ、華月」
「楽しそうな笑い声が聞こえてましてよ。
ご当主がお友達と笑いあうなど、
昔からしたら考えられぬことでしたわね。
飛翔の言葉の通り、
ご当主を外にお連れして良かったですわ」
そう言いながら、陸奥にも視線を向けて
穏やかに微笑みかける。
「伊舎堂様より、
退院の承諾が得られました。
久松に送らせましょう。
マンションまで。
お友達の方も、ご当主の車で。
確か先代の陸奥村長のお孫様で
いらっしゃいましたね。
今のお住まいは、
親族の方の元でしたでしょうか?」
華月が呟いた途端に、
陸奥の表情が曇っていく。
コイツ……
一族が調べたデーターでは
確かに、そうあがってきていた。
「あっ、親戚の家は出ました。
今は一人暮らしですので、
お構いなしで。
送っていただかなくても、
帰れますから」
陸奥が呟いた言葉に、
思わず耳が反応する。
「一人って?
一族からの報告には、
お前は親族に引き取られて
生活って書いてあったぞ」
「あぁ。
親族に引き取られた。
叔父さん夫婦が、
親父たちの財産欲しくてさ。
けど借金作って、
自分の子供の面倒だけで
必死だったからさ。
山辺が土砂に埋もれた後は、
ずっと肩身が狭かった。
義務教員までは何とか出して貰ったけど、
小学校も、中学校も修学旅行とかは行けなかった。
給食費用や、鉛筆一本のお金まで、
くださいって言うと、嫌がられたしさ。
香宮には、推薦入学で
成績が下がらない限りは
学費免除の恩恵で通学してるから。
家は……適当な、
ボロアパート借りてる。
雨さえしのげりゃ、十分だから」
陸奥によって語られた
九年間は、報告からの想像とは
全くかけ離れたものだった。