悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

10.桜瑛


その夜、息苦しさで
眠ることが出来なかった。

肉体を休ませようと
体をベッドに横たえると
息苦しくなり、
悶えるように体を起こす。

目覚めて周囲を見渡すものの
目に見える異変はない。

ただ……目で見えぬ
もう一つの目に神経を集中させると
自分を取り巻く、
真っ黒な渦を感じ取ることが出来た。


真っ黒な渦は、
冷たいわけでも暖かいわけでもない。

無機質に寄り添うように
存在し……俺の心に呼応するかのように
うねりをあげて変化していく。


渦の方へと
ゆっくりと手を伸ばすと、
その渦の中は
俺自身の手をすり抜けながら
今もまわり続ける。


こんな渦の中の世界は……
何処か心地よかった。


そうだ……。

最初、この渦を見たのは……陸奥。

次にこの渦を見たのは、
朱鷺宮涼夜。



二人を包む闇が濃いくなった……。


ずっと気になりながら、
何かわからなかったその闇の渦が
今はこうして、
俺の近くに存在する。





そして今は
常に闇の渦は俺の傍に寄り添う。






言葉が聞こえるわけでもなく、
飛翔たちに
その闇の渦が見えているわけでもない。








その闇の渦は……
俺の持つ、消えることのない罪悪感に……
寄り添うように存在してくる。





どんな形にしろ、
どんな理由があったにしろ……



俺は母を殺した。

そして……父も……殺した。





俺がこの世に存在しなければ、
母も父も死ぬ必要はなかっただろう。





そう思うと……
俺はいつも、心の何処か
親殺しの烙印を背負いながら
生き続けている。







取り戻すことも出来ない
その命の重さに、
押しつぶされそうになりながら
小さな頃からに
求められるままに、
大人の世界を精一杯走り続けてきた。






あの日……
アイツが迎えに来るまで。







飛翔が迎えに来て……
アイツと関わるようになってから
人らしく慣れたと
俺自身も感じる。




飛翔の存在が、
俺を等身大に戻してくれる。





俺が得ることがなかった……
親からの愛情みたいな、
家族のぬくもりみたいな、
そんなものを貰った。







だけど……
その時間になれればなれるほど
いつも……恐怖がつきまとう。





俺と一緒に居て……
アイツまでが、
母や父のようになることはないのかと……。





俺を守るための身代わりなんて
もう沢山だ。





これ以上、俺に……
親殺しの烙印を押させないでくれ。










闇の渦は次第に濃いく落ちていきながら、
俺の周りを大きく渦巻いていく。


< 47 / 104 >

この作品をシェア

pagetop