悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
息が出来ない衝撃に
胸を掻き毟る。
どれだけ足掻いても、
苦しくなるばかりで、
新しい息を吸うことが出来ない。
次第に真っ暗に
遠のいていく意識。
『望みはすぐ傍だよ』
そんな不気味な声が木霊す。
……ダメだ。
これは夢だ……。
流されてはいけない。
覚醒させないと……。
痺れていく感覚の中で、
必死に皮膚に爪をたてる。
痛みで……僅かでも、
こっちの世界に
覚醒を繋げることが出来れば。
その時、闇を切り裂くように
空間に鳴り響いた一本の電話。
目前に広がる両親の幻影も、
俺の首を絞めつけたリアルな感覚も
一瞬のうちに霧散していった。
今も鳴り続ける携帯を引き寄せて
液晶に表示された名前を見つめる。
秋月桜瑛。
「もしもし」
けだるさの残る体で電話に出る。
声すら掠れてまともに出ない。
「神威!!
どうかしたの?
何があったの?」
電話の向こう
不安げな声が聞こえる。
「夢を見てた……。
心地いいけど残酷な夢を……」
「神威……私も夢を見たの。
あの不思議な紅い龍の夢を。
紅い龍が教えてくれたの。
神威を包んでた黒い影を、
真っ赤な火が包み込んで、
闇を晴らしていくようなそんな夢を。
だから……電話をしてみたの。
貴方の声が聴きたくて」
「助かったよ。
あのままお前からの電話がなかったら
やばかったかもな。
俺は取り込まれていたかも知れない」
徐々に取り戻しつつある
五感を研ぎ澄ましながら
振り返っていく時間。
桜瑛からの電話がなかったら、
俺は自分の意志で
この世界に戻ってこられただろうか?
その結果はわからない。
それほどに巧妙に忍び寄ってくる影。
「神威、今から抜け出すわ。
いつもの場所へ。
逢いたかった……。
貴方が入院をしてるのに、
お見舞いすら行けなくて……」
「気にする必要はない。
何時もの場所で待ってる。
俺は迎えに行けないが、
久松を迎えにやる」
電話を切ると、
その足で久松に連絡をとって
桜瑛の送迎を依頼すると、
彫が施されたエレベーターに乗って、
一つの下の階へ行く。