悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「この度、この宝物の書庫におさめられまする
古文書のならわしに従い、
現・宮家(みやけ)と務める後続の血筋より、
古代より、影宮(かげみや)として
この国を守護する務めを担う、
徳力・生駒・秋月。
この三家の影宮の長たる、徳力に
朱鷺(とき)の啓示に従い、
贄(にえ)として降家するものが
伝えられました。
古くからこの国を治める為に、
取り決められし、秘め事。
此度、朱鷺宮涼夜の身柄を我ら夫妻が、
養子として迎え入れることが決まりました」
静かに頭を垂れて伝えられた言葉。
「朱鷺(とき)は、
時(とき)の韻を宿し者。
この後の龍神の力に纏わる解放に
深く関わるものと、太古より記され言い伝えられています」
そう続けた闇寿の言葉に、
俺は屋上でアイツに言われた言葉の意味が
ようやく理解できた。
アイツは知っていたのか……。
己が身が、
こうなる定めであることを。
生まれた時から?
宮に関わるものから、
この国の安寧を願って
影宮に人柱と支えられる少年。
それは……
海に消えて行った、
俺の両親たちと何処か似ていた。
「明日、正式に宮家からの使者が
訪れます。
ご当主と飛翔にも、
徳力の長として、
ご立会いをお願いすることとなります。
それ故に、今宵
総本家へとお越しいただきました」
華月夫妻は、そう言うと
ただ静かに頭を下げた。
「万葉、ご当主と飛翔を母屋へ」
華月に促されると、
万葉は俺と飛翔を連れて
表の顔になる、
母屋へと連れて行った。
その途中、別宮へと続く大きな扉を
幾つも幾つも閉めながら。
昨日、告げられた言葉が
今も消化しきれぬままに
朝を迎えた。
その日、部屋を抜け出して
父さんのお墓へと向かう。
心の中に潜む、闇が晴れない。
そこまでして、
何故……家と国を
守り続けなければいけない?
そんな葛藤が、
湧き上がってくる。
墓の前、
見慣れた姿を見つける。