悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


「飛翔、来てたのか」

「まぁな」




そう言った飛翔は、
ただ黙って父の墓を見つめ続けていた。




この墓に父の遺骨は何一つない。



納められているのは
遺髪のみ。


母の墓は
一族の敷地内に存在しない。



『母は禁を犯した罪人だから』




母の遺髪は、
父の墓が出来た時に、
こっそりと共に埋葬した。






手を合わせる隣、
飛翔は何かを決意するように
ただじっと、
墓石を見つめ続けていた。





墓参りの後、
屋敷に戻った俺たちは、
宮家の使者を迎える支度を
慌ただしくする家の者を目にしながら
自分の部屋へと向かった。




一族の当主としての、
紋付袴に袖を通して
自身の支度を整える。



飛翔もまた、
同じように
紋付装束で俺の前に姿を見せた。





昼刻。

万葉が俺たちを迎えに来る。




案内された場所に、
向かい合うように着席する
華月夫妻と、宮家の者。




その隣……
ただ頭を垂れる
朱鷺宮の姿を感じた。



「当家、ご当主。

神威様ご入室です」




万葉の言葉の後、
俺は当主としての上座に
ゆっくりと座る。




その斜め前の所定の位置に、
飛翔もまた静かに座った。






「宮家の使いとして
 朱鷺宮さまと共に参りました
 私の名は、倉智(くらち)。

 朱鷺宮様が誕生あそばした頃より、
 お傍でお守りしてきたものにございます。

 本日、この大安の日に
 こちらにおわします、朱鷺宮さまが
 古の契約により、徳力への証として
 降家する運びとなりました」





形式的に放たれる言葉に
愛情などは感じられない。



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