悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「徳力家、ご当主後見役。
華月にございます。
この度、約定によりまして
涼夜さまを養子に
お迎えすることとなりました。
主人・闇寿(あんじゅ)と共に
精一杯務めさせて頂きます」
次に声を紡いだのは、
華月。
その背後には、
滅多に表舞台に顔を出さない
闇寿が頭を垂れる。
そんな光景をただ
唖然と見つめながら、
その時間は過ぎていった。
そんなやり取りを見守り、
朱鷺宮は、
養子縁組に関わる書類に
自身の名前を記していく。
時折、
作り笑いを浮かべながら
周囲を眺めた涼夜は、
ゆっくりとお辞儀をした。
朱鷺宮涼夜として
育ち続けた時間は
瞬く間に終止符を打ち、
徳力涼夜(とくりき すずや)としての
名を抱く。
涼夜の手に抱かれたのは、
宮家に居た頃の証とも言える
朱鷺の紋が刻み込まれた
小さな小箱がただ一つ。
養子として迎え入れられた
朱鷺宮の手荷物は
小さな小箱、ただ一つだった。
倉智は、華月夫妻の元に
朱鷺宮が歩み進んだのを見届けて、
静かにお辞儀をして
総本家から退室していった。
宮家からの降家ともなれば、
もっと宮に繋がる人たちが
見送りに来ると思っていたのに
朱鷺宮についてきたのは、
倉智ただ一人。
徳力涼夜と名を改めた
朱鷺宮は、
俺と飛翔にゆっくりと頭を垂れて
後見夫妻と共に、
別宮の方へと消えて行った。
古からの習わしに納得できぬまま
もやもやとした心が
晴れることがない俺は、
儀式の後、飛翔と共に
マンションへと戻った。