悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「今朝、気になって総本家に来た。
そしたら、屋敷内に黒い闇が濃く降り立っていて
村の人たちや屋敷の者たちが次々と体調不良を訴えたんだ。
そっちは神前に依頼したから、
伊舎堂経由で誰かが来てくれてると思う。
後で飛翔も顔出しておいてくれないか。
俺は動けそうにないから」
そう言った俺の髪をアイツはくしゃくしゃと
優しく撫でつけた。
「ガキじゃねぇっつの。
桜瑛に浄化を依頼した後、結界張ったんだよ。
総本家全部を包み込むように。
そしたら体力消費が半端なかった。
んで全てが終わった時、
ぶっ倒れたってのが状況だな。
まだ弱すぎんだよ。
俺の力が……」
だからアイツの……朱鷺宮の意識を感じとれたのに
その先のコンタクトが出来なかった。
これ以上、アイツのテリトリーに踏み込むことを
俺が躊躇ったから。
朱鷺宮……朱鷺宮は?
「飛翔、俺を朱鷺宮のところへ連れて行けっ!!
早く」
突然荒げた声に桜瑛は起きてしまい、
心配そうに俺をただ見つめ続けた。
「桜瑛、心配するな。
少し気になることを確認してくる。
飛翔、頼む」
飛翔に支えられながら、
あの日、万葉に案内されて向かった
奥宮へと続く屋敷内の道を歩いていく。
奥宮。
宝物殿のあるその場所が華月と闇寿が住まう館。
さくらとなった暁華は、
一人、桜御殿で生活を続けていた。
奥宮に続く扉の入り口前。
門番のように立ちふさがるのは万葉。
ただ一言も発さず、その場に立ち尽くす万葉の様子は
普通ではなかった。
闇の気が濃いく万葉を包み込んでいる。
「飛翔、万葉は?」
異変に気が付いた飛翔はすかさず様子を確認して、
母屋の方から、動ける人材を呼び出して
万葉を神前のドクターが来ているはずの
村の診療所へと運ぶように指示を出した。
「万葉は大丈夫だ。
後は、この扉を開かないとな」
そう言って、飛翔は扉の取っ手に手をかけて
体重をかけるように開けようとする。
「闇が降りてる」
「闇?」
「あぁ、何度も目にしてるんだ。
学校や、俺の周囲で」
ぼやくように吐き出したとき、
中から鍵が解除される音が聞こえた。
ゆっくりと開けられた扉。
そこには闇寿の姿があった。