悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
15.飛翔の覚悟
奥宮の広間を後にした俺は、
自室へと一度戻り、白装束に着替えを済ませると、
総本家の建物から抜け出して社に続く細道を駆け上がる。
禊を済ませて、ゆっくりと社の中に閉じこもると、
気を集中させていく。
目を閉じ、感覚を解放していくだけで
様々な声が洪水となって流れ込んでくる。
人の持つ、喜怒哀楽。
生きて行くために必要な心の声の数々。
そしてその声に対となるように
入り込んでくる、闇の声。
その闇の声はやがて俺が求める闇へと
姿を変えて行く。
何度向き合おうとしても、
決して慣れることが出来ない重苦しさ。
呼吸が安定せず、脳内をかき乱されるように
じんわりと侵食し始める闇の魔物。
☆
『母殺し、父殺し。
お前が殺した過去は何も変わらない。
この手を取るがいい。
苦しまぬ世へと、
お前を責めぬ世界へと連れて行ってやる。
お前を幸せにしてやるから』
俺に纏わりつく
カムナは優しい。
そう……今を生き続ける。
それだけで俺は罪を重ねる。
母親殺し。
父親殺し。
生贄として殺されたとは
その時知る出来事ではなかったとしても、
その命と引き換えにして生かされた命。
その現実の重圧は重たい。
目を閉じると、
それだけで囁かれる声が聞こえる。