悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

15.飛翔の覚悟 


奥宮の広間を後にした俺は、
自室へと一度戻り、白装束に着替えを済ませると、
総本家の建物から抜け出して社に続く細道を駆け上がる。


禊を済ませて、ゆっくりと社の中に閉じこもると、
気を集中させていく。


目を閉じ、感覚を解放していくだけで
様々な声が洪水となって流れ込んでくる。



人の持つ、喜怒哀楽。


生きて行くために必要な心の声の数々。




そしてその声に対となるように
入り込んでくる、闇の声。


その闇の声はやがて俺が求める闇へと
姿を変えて行く。




何度向き合おうとしても、
決して慣れることが出来ない重苦しさ。



呼吸が安定せず、脳内をかき乱されるように
じんわりと侵食し始める闇の魔物。










『母殺し、父殺し。
 お前が殺した過去は何も変わらない。

 この手を取るがいい。

 苦しまぬ世へと、
 お前を責めぬ世界へと連れて行ってやる。

 お前を幸せにしてやるから』



俺に纏わりつく
カムナは優しい。





そう……今を生き続ける。



それだけで俺は罪を重ねる。



母親殺し。

父親殺し。




生贄として殺されたとは

その時知る出来事ではなかったとしても、
その命と引き換えにして生かされた命。




その現実の重圧は重たい。



目を閉じると、
それだけで囁かれる声が聞こえる。


< 70 / 104 >

この作品をシェア

pagetop