悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「さてっ。
始めるか」
「始めるって。
御霊分けが
どんなものか知ってるのか?」
「闇寿さまに聞いてきた。
大丈夫だ……。
お前は、
自分が成すべきことだけを考えてろ」
そう言った途端、
飛翔は父さんから託された護符を
ゆっくりと懐から取り出して、
その札の文字を辿るように、
右手の人差し指と中指を揃えて
なぞり上げていく。
護符から解放されていく
金色の光。
その光が次第に強くなっていくと、
隣の飛翔の表情が、
苦痛にも似た表情へと変わっていく。
「おいっ、飛翔。
何してる」
今も強く放ち続ける光。
俺の声はすでに
飛翔には届いていないようだった。
やがてその光は、
社全体を柔らかに包み込んでいく。
飛翔の体がグラリと傾いだ時、
俺の眼前には雄大な姿で眩い雷光を解き放つ
龍が姿を見せる。
「雷龍?」
その龍がまっすぐに俺を捕える。
目を逸らすことすら出来ず、
その力に捕縛されてしまったかのように
固まっていく体。
そんな体験は初めてだった。
動くことが出来なくなった俺自身に、
ゆっくりと忍び寄るようにまとわりついていく黒い影。
その影は、何時ものように
優しさと共に寄り添ってくる。
闇に誘われるように、
俺は何も見ることのない
靄の中へと引きづり込まれていった。