悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
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真っ暗な闇が
濃いく降り立ち続ける世界。
そこに浮かび上がるのは、
幼い時から降り続ける雨。
白装束を身につけた大人が
俺を一度だけ抱きしめて
ゆっくりと闇の中に消えて行った。
その闇の方へと、
俺は駆け出していく。
『母さん……』
声を出して呼び止めると、
母は立ち止まって、
俺に振り返り微笑みを携えて、
ゆっくりとその両手を横へと広げた。
海面がゆっくりと引いて、
割れるように、広がっていく。
その中を母さんは、
一人海の中へと歩いて行った。
その天に姿を見せるのは、
金色の龍。
龍が海へと降り立ったと同時に、
海面は命を帯びたかのように、
母を飲み込んで荒れ狂い始めた。
強くなった雨足は、
一瞬のうちに母親を飲み込んだ。
姿が見えなくなった
その海を見つめながら
強い雨に打たれながら、
砂をキツク握りしめる。
村人たちは、
母さんが消えた海に背を向けて
何事もなかったかのように、
砂浜を後にしていく。
残された一握りの髪だけを
恭しく抱いて。
暗闇に鳴り響くのは、
チリ~ンっと
小さく音を響かせる鈴の透き通った音色。
ふらふらの体を引きずるようにして、
村人たちの列に並んで歩いていく。
辿り着いたその場所には、
父さんが黒い服を
身に着けて待っていた。
村人たちに託された髪を
黙って受け止めると、
『ご苦労だった』と
静かに言葉を吐き出して
村人たちを労った。
ご苦労だった?
その夜、父さんは
母さんの髪を向かい側に置いて、
一人、酒を酌み交わしていた。
翌朝、母さんがいなくなったことに
泣き続ける俺が父さんを求めたその時まで。
俺と同じような場所に刻まれた
雷龍の刻印に、触れながら。
『神威……お前が居なければ……。
お前さえ、生まれなければ
深凪はこんな風にはならなかった』
直後、吐き出された父さんの言葉。
父は、見えるはずのない俺の姿を
確実に捉えて言の刃を突きたててくる。
その言葉は、
俺の周囲を取り巻く闇を
より深く濃いいものへとしていった。