悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~



次に流れ着いた闇の中。


そこに姿を見せるのは、
あの時と同じように、
白装束に身を包んだ男。





父さん?








母さんに続いて、
父さんのその終焉(とき)を
見せようと言うのか?





その残酷な時間を見せ続ける
それに対して、
責めるような心が一つ。





その先を
見届けたいと望む欲求。


目を逸らしたいと
感じる欲求。




相容れない俺の心が、
荒波をあげるように
心の中ぶつかっていく。







「父さんっ!!」





溜まらず声をかけて駆け寄ったその先、
振り返ったのは、父さんではなく……飛翔だった。






「飛翔。

 何してんだ」




叫ぶ俺に、飛翔は『構うなっ!!』と
一言、突き放すように告げた。






踏みとどまった足元、
そこに広がるのは闇の沼。






何処までも濃いく、
弱い心を飲み込んでいく
そんな沼が、
静かに闇に紛れて潜んでいた。 





飛翔は、その闇の沼の上を
ただ一人歩き続ける。







その姿が、
母さんが海に消えていく姿と
俺の中で重なっていった。








『飛翔っ!!』






もう誰も失いたくない。



その望みだけが、
アイツの名前を叫ばせる。



その声に呼応するかのように、
手に刻まれた龍の刻印に、
内部に流れる血で描かれるように
龍の刻印が紅く浮き上がった。






そのまま放たれる光。





光は暗闇を切り裂いて、
天を突きぬけ、
飛翔が解き放った龍と絡み合うように
睦みあっていく。





その龍が駆け上がった麓。




まだ幼すぎる俺は、
目に涙を沢山浮かばせながら
村人たちや、真っ暗な海と
必死に戦っていた。




幼い俺が抱くのは……
父さん、母さん……
そして飛翔……。





俺はゆっくりと、
その小さな光に手を伸ばす。



幼い俺は、安堵したように
俺の中へと引き寄せられていった。





『父さん、母さん……』





金色の光が地上に
ゆったりと降り注ぐ中
二人は、俺に笑顔を見せて
ゆっくりと天へと還っていく。







「飛翔……」




近づいた俺は、
呼びなれた名前を紡ぐ。

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