悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「影宮のお成りです」
万葉によって紡がれた言葉の後、
ゆっくりとその広間へと歩みを進める。
俺のすぐ後ろに控えるのは暁華。
その後ろに見守るように控えるのは陸奥。
頭を垂れる関係者の前で臣に置いたばかりの、
宝玉をお披露目する儀式。
ただ静かに呼吸を整えて、
手の刻印へと意識を集中させていく。
刻印が次第に熱を帯びた時、
金色の光と落雷と共に姿を見せた甲冑姿の青年。
その青年が俺の傍寄り添うように控えた。
それを受けるように生駒の巫女もまた、
蒼龍の姿を顕現させる。
『火綾の巫女』
小さく紡がれた言葉に桜瑛もまた頷くと、
鈴が透き通った音を鳴らし褐色の肌の青年が姿を見せる。
影宮を守護する龍神たちが一同に
祝福を告げる時間。
その場所に懐かしい姿をとめる。
「この度は影宮へのご就任おめでとうございます。
鬼の国を治めます国主・咲にございます」
長い黒髪をポニーテールに結わえた
その人は、塚本神社の孫。
「影宮の誕生、こころより寿ぎ申し上げます。
桜鬼神・和鬼にございます」
姿を見せて傍に膝を折る二人。
『咲姫、桜鬼神。
久方ぶりじゃな』
蒼龍の声が直接心の中に流れ込んでくる。
「影宮。
時の君が闇に飲み込まれるまで後一刻。
お急ぎくださいませ」
桜鬼神が告げた言葉に一気に現実に引き戻される。
「影宮。
戦いに赴くにはその内なる力の宝剣を解放し
雷龍の力を……」
柊が告げた言葉に俺はあの日、
学校で涼夜が告げた言葉を思い出した。
『徳(解く)を重(おも)んじ、
その力を持って、宝と成す』
徳=解く。
解放させることによって育まれる存在。
それは『徳』をもたらす道標となる。
その力は龍の抱く力。
今、俺がここに居るのは俺に関わる全ての存在が
俺を守り続けるから。
守られし力を己が守りし力へと
解放していく。
自分の中で気を練り上げて、
一本の宝剣を鮮明に描き出していく。
細部までリアルに描き続け、
血を錬金していく。
左手の掌から浮き出した柄を
ゆっくりと右手で握りしめると一気に引き抜いた。
体の中から初めて、
抜き出されたその刀を切っ先を
ゆっくりと両手で挟んで手をスライドさせていく。
途端に練りあわさっていくさくらの気。
「貴咲、力を貸せ。
新たなる玉を抱きし神威が告げる。
我を支え、我を導け。
汝が力、この剣に宿れ」
空に突き上げた宝剣に
雷が宿り稲光を剣を包み込んだ。