悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
昔から伝わりつづける、
御所と呼ばれる広い敷地内の山奥側から
倉智の車で向かうのは、
両親である両陛下と、兄が住む屋敷。
倉智の運転で黒く大きな車が、
家族が住む屋敷前へと滑り込む。
「涼夜さま、到着いたしました」
運転席から声をかけた倉智。
同時に、後部座席のドアをゆっくりと開く
この屋敷の警備を担う男が俺の上から下まで、
危険物を持っていないかを調べて入室を許可される。
エントランスから奥に案内されるままに通された部屋。
ソファーに座り、
二人の登場を居住まいを正して待ち続ける。
10分ほど時間が過ぎた頃、
二人がゆっくりと姿を見せた。
「涼夜、待たせてすまない」
そう言って声をかけながら、
入室してくる父親らしくない存在。
その隣には、男性をたてるように
一歩引いて寄り添う母親らしくない女。
そんな二人をゆっくりと立ち上がって
一礼しながら、出迎えた。
「今日は、兄さんは?」
「竜也は公務中だ」
公務と言う言葉が俺を追い詰めることなど、
目の前の存在はしらない。
「涼夜さん。
お父様より、いえ陛下より大切なお話があります。
そちらへお座りなさい」
そうやって着席を促すと、
陛下の着席を待って、俺もゆっくりと腰をおろした。
その後、
母親もまたゆっくりと腰を下ろす。
「長い間、昂燿校にて閉塞した時間を過ごさせて悪かった。
朱鷺宮涼夜。
涼夜が、その朱鷺宮の御名(おんな)を抱いた理由は
倉智より聞かされていると思う」
そうやって切り出された言葉で、
記憶を遡っていく倉智よりもたらされた昔話。
太古の昔より、この世界は影宮と呼ばれる
徳力家・生駒家・秋月家のの三柱によって支えられている。
この影宮が本来の役割を全うできるべく、
表の一切を取り仕切るのが、現行の宮と呼ばれる俺たちの一族。
そして……現行の宮の一族と、
影宮の一族を繋ぐ、影宮への贄が朱鷺宮を司る俺自身の役割。
朱鷺宮を抱いたその時から、
俺は影宮へと生贄に差し出される存在として育てられてきた。
その時が来るまで。
その生贄が、どういうものを意味するのかは、
一切の知るところはないけれど、
その約束の時が来たのだと思い知った。