悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~
「朱鷺宮の名は影宮への生贄に与えられし名。
その時が来たと言うのですね」
刻み込むように、言い聞かせるように
ゆっくりと切り返す言葉。
「陛下も……いえ、お父様も心苦しいのですよ。
それに私も、苦しい。
お腹を痛めて産んだ我が子が、こんな運命(さだめ)を持って
誕生してくるなんて。
それでもこの世界を守るためには必要な事なのです。
わかってください、涼夜」
どんなに綺麗ごとを並べても、
事実が変わることなどない。
全ては時の刻印をつけて生まれて来てしまった
俺自身の運命。
「朱鷺宮涼夜を影宮、徳力の元へ降ろすこととなる。
手続きは恙なく済ませておく。
涼夜も心の準備をしておきなさい。
徳力の当主は涼夜と同い年だときいたことがある。
仲良くなれるといいな」
そう言葉を残して、
父親と母親はゆっくりとその部屋を後にした。
一人残された部屋で溜息を吐き出して
俺も、その部屋を後にする。
「涼夜さま、
お疲れ様でございました」
すかさず倉智が近づいてくる。
「倉智、影宮の元に
生贄になる日が決まったようだ」
わざと自虐的に告げる言葉。
「涼夜さま、生贄などとご自身を貶めるような発言はおやめください。
この世界を守るため涼夜さまは選ばれて影宮の元向かうのだと
倉智は何度も説明してきました。
朱鷺宮の御名を貶める為の戯言などに
惑わされることなく、涼夜さまの誇りを持って前に踏み出してください」
そう言いながら、倉智は車のドアを開けて
俺を車内に招き入れると運転室へと素早く移動して、
車を屋敷まで走らせ始めた。
背負った宿命(さだめ)の重圧の
本来の意味など考えもしないままに俺の運命は動き出していた。