悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~




「涼夜さま、御時間でございます」



倉智の声を受けて、自分の部屋から出ると草履をはいて出掛ける。



「どうぞ、迎賓館までの道を 八瀬(やせ)のものがお送りいたします」


倉智に言われるままに、
昔から朱鷺宮のものの為にのみ作られた輿に乗り込み、
八瀬の童子と呼ばれる代々、宮家の籠を担ぐことに誇りを持つ
彼らの手によって、ゆっくりと輿は浮遊した。


その籠の中で正座をしながら朱鷺宮の為にのみ作られた、
山深い迎賓館へと向かう。


何処までも表の世界から遮断された空間。



輿の小窓を開けると、
その隣を正装姿の倉智が付き従うように歩いている。





「涼夜さま、間もなく朱鷺宮の迎賓館でございます。
 迎賓館の表にはすでに影宮の車が到着している様子です。

 お籠は裏口より入室し八瀬の者が御簾の奥までご案内いたします」


「わかった」




輿だけでも仰々しいのに今度は御簾と来た。



倉智の言う通り、輿は建物の中にゆっくりと入り、
その奥の一室で掛け声と共にゆっくりと輿が降ろされた。




「涼夜さま、輿よりお出ましになっても宜しゅうございます」


ゆっくりと輿の扉が大きく開かれて、
俺はその空間から降りて大きく伸びをして首を軽くまわした。



そんな俺の様子に驚いたような様子を浮かべた八瀬のものは、
倉智の合図で輿を部屋から退室させていく。




「涼夜さまは、こちらのお席へ」




倉智に指定されるまま、
対面の間の一段高いところの中央に俺は座ることとなる。



「倉智、俺はここで何をすればいい?」



儀式と言うものに、関心がない現状
流されるままにしている感覚が拭いきれない。



「只今より、私が徳力のものを呼びに参ります。
 
 涼夜さまは、この場所から御簾をあげることなく
 言葉を交わしてください。

 お言葉は直接、交わされても構いません」



そう言うと、倉智は静かにお辞儀をして
その部屋を後にする。




「影宮、徳力様、現当主後見役。

 徳力華月(とくりき かづき)様並びに、
 同じく、影宮、徳力さま朱鷺宮さま後見役 
 徳力闇寿(とくりき あんじゅ)様
 
 影宮、徳力様。
 分家頭・現当主後見役、徳力万葉(とくりき かずは)様

 ご入室でございます」



五分くらいの静けさの後、対面の間に声が響き渡る。


倉智のゆっくりとした声が室内に響き、
御簾越しにその三人が入室してくる気配を感じる。



倉智が恭しく、徳力の三人を出迎えて
対面の間に用意された、それぞれの場所へと座らせる。
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